公平無私
さる町の僧正さま、おいぼれ馬にのって教区巡視に出かけました。
山間の村をおとずれ、意外のご馳走になった僧正さま、寝るときに、
「わしの馬は、おいぼれじゃが、長年かわいがっている。
どうぞ大切にしてやってくだされ、わしと同じようにな」
村の坊さん、僧正さまに寝床をゆずって、じぶんは隣家に泊まったが、
馬が気になり、夜中、住まいに帰ってみると、何とご機嫌になった僧正さま、
女中のマリーを引きいれて寝てござる。
ふんがいした坊さん、さっそくうまやへ行き、僧正さまのおいぼれ馬に、
じぶんの牝馬をあてがった。おいぼれ馬は大よろこび。
さて、翌朝、僧正さまが、馬にのって帰ろうとすると、昨夜がたたって、
馬がふらふら、十メートル行っては、足がガタガタ、二十メートル歩いては、
足がヨロヨロ。
僧正さま、おどろき、
「わしの馬をどうなされた?」
「大切にしてやりました。僧正さまと同じように・・・」
西洋風流小咄集 より