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六代目三遊亭円生の噺、「水神」

2014年11月24日 | 落語・民話


六代目三遊亭円生の噺、「水神」(すいじん)によると。
 

 昔、三囲(みめぐり)神社の縁日の晩、三十格好の男が2ヶ月ぐらいの乳飲み児を抱いて、おろおろとしていた。空腹とみえて、激しく泣き続ける児をあやしきれずにいた。黒っぽい着物姿で、露天商いをしている二十五・六の人格の良い美しい娘が、みかねて声を掛けてきた。娘のお乳を含ませると、がつがつと飲んで安心したように眠りこけてしまった。
 女房は私の働きが悪いので、この子を置いて何処かに行ってしまった。お乳をほしがるので心当たりを探していたので、お礼にお名前を教えて欲しいと言うと、「こう」だと言う。「お幸さん、ですか。良い名前ですね。一生涯忘れません。私は屋根職人の”杢蔵”(もくぞう)と言います」。
 これからもお乳が必要でしょうからと、女は店をたたみ、児を抱いて、男を「水神の森」にある我が家へと案内した。これが縁で女と男は一緒に住むことになった。

 お幸は児を連れて縁日に出かけて商いをし、家ではかいがいしく杢蔵の世話をした。杢蔵は家族の幸せを感じ、生まれ変わったように屋根職人として真面目に働いた。知らず知らずの内に小金も貯まって、幸せな日々が4年間続いた。

 5年目のある早朝のこと、杢蔵が目を覚ますと、お幸がまだ寝床で眠ったままでいた。初めて見るお幸の寝姿であった。布団を掛け直してあげようと、その姿を見て驚いた。
 お幸は、顔は人間だが、体はカラスだった。
 杢蔵は化け物を蹴飛ばそうとしたが、これまで世話してもらった恩を考えるとそんな事は出来なかった。気を取り直し、見なかったことにして、布団を掛け直した。
 とその時、普段と変わらぬ姿で起きてきたお幸が、「見たでしょ」と言った。「ん、チョイとだけ」と言ったが、お幸は座り直して身の上を語り始めた。

 お幸は、水神さまのお使い姫の牝ガラスであった。 神様から頼まれて霞ヶ浦まで行ったが、若かったので途中で遊びほうけて、使いの事は忘れてしまった。神様が怒って、野ガラスにするところを、5年間人間の女にして置くから、それが無事済んだら元の使い姫に戻してくれる事になっていた。人間になったがどの様に生活すればいいのか分からなかったので、カラスになって山に入って果実や玉子などを採って、縁日で売って生活をしていた。
 貴方の事も小梅の空から見て知っていました。我が子を置いて居なくなった人間は何て非情なんでしょう。ですから、この児を私が育てる決心をしたのです。貴方の事も嫌いではなかったので夫婦になったのです。貴方に私の正体を見られたので、5年にならないので、野ガラスになるでしょう。

 どうか今のままでいてくれと、杢蔵は懇願した。俺はお前が好きだからと頼んだら、この黒羽織の様な物を着れば一緒に行けるとお幸は言った。子供の事を考えるとカラスになる勇気のない杢蔵は人間にとどまった。
 お幸は一陣の風とともに去っていき、家もたちまち消え、カラスの群が舞っていた。隣で寝ている子供を起こすと、水神に遊びに来ただけで、小梅の家に帰ろうという。子供に聞きながら帰ると小綺麗になった家だった。お幸はみんなには見えなかったが、充分すぎる程家族を守っていたのだと、杢蔵は思った。
 勝手なもので、元の女房が尋ねて復縁をせがんだが、追い返してしまった。それから男手ひとつで、一生懸命育て、十二の時浅草の呉服屋に奉公に出した。二十三になった時、実力を認められて、大店の娘にと養子に入った。

 杢蔵は独りになって、思い起こされるのはお幸のことばかり、水神に来てみるとカラスが群がって飛んでいた。「枯れ枝に カラスの止まりけり 秋の暮れ」、よっぽど寂しくなったのか、お幸に逢いたさに黒い羽織を脇に抱えて、大屋根に昇った。
 お幸の事を考えて、羽織に袖を通すと羽根になって、ふわりと大空に舞い上がった。
 おお、飛べる!飛べる!
 
 「お幸~!おこう~~」。
 

 

 

 

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