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 へっぴりよめご 『屁っぴり嫁ご』

2014年12月24日 | 落語・民話

 へっぴりよめご
『屁っぴり嫁ご』
― 岩手県 ―


 むかし、あるところに男がひとりおって、嫁(よめ)を貰(もら)ったと。
 嫁ごはきりょうもよく、まめに働くので近所(きんじょ)のほめ者になっていたと。
 ところが、日が経(た)つにつれて嫁ごの顔色が青くなり、起居(たちい)もなんぎそうになっていった。
 心配した婿(むこ)どの、
 「近頃(ちかごろ)顔色も悪いし、つらそうに見えるがどうかしたか」
と聞いた。そしたら嫁ご、はらりと涙(なみだ)を落したが、うつむいているだけで何も言わない。困った婿どの、
 「夫婦の間で隠し事をするとは何事だ。言わないなら、今日限りこの家を出て行ってくれ」
と、脅(おど)かしてみたと。すると嫁ご、
 「言っても出される。言わなくても出されることなら致し方(いたしかた)ありません。どうぞ、お情けと思って聞かないで呉(く)ね」
と言って、さめざめと泣いたと。
「あ、いや、なんだ、そのぉ、今のは俺が悪かった。たとえどんなことでも、言ってくれさえしたら許(ゆる)すから言え。いや、言ってくれ。俺は、そなたのこの頃の顔色がただごとでないから、それが心配(しんぱい)で聞くのだ」
 「すみません、それでは言いますが、必ず笑わないと約束して下さい」
 「わかった。約束する」
 「実は、私には屁(へ)を放(ひ)るくせがありますが、その屁を今日までこらえてきましたので苦しうて苦しうて、それで、ご覧(らん)のありさまとなりました」
 「なんだぁ。屁、だと。屁くらい出るにまかせればいい。放れ。早よ放れ。俺は聞いても聞かんふりしている」
 「放れと言われたのは嬉しいのですが、私の屁は並(なみ)の屁ではありません。鳴らしたらこの家の天井(てんじょう)が飛び抜けてしまうほどのもの。やすやすには鳴らせません」
 「なに、抜けたら修理(なお)せばいい」
 婿どのは嫁ごには替(か)えられないから、こう言うた。嫁ごは、今度は嬉(うれ)し泣きだと。「かほどまでさばけて下さるとはありがたい婿さまだ。この婿さまを吹き飛ばしてはバチが当る。ちょっとの間(ま)、辛抱(しんぼう)していて呉なされ」
と言って、大切な婿さまを大黒柱(だいこくばしら)にしばりつけたと。
 そうしてから、放った。一発どかんと。
 家の天井が飛び、勢(いきおい)あまって、大切な婿さままで大黒柱ごと、空の中さ吹き飛ばしてしまったと。
 嫁ごは我れながらびっくりして、
 「わが婿さまはどこだます。ほうい。
  わが婿さまはどこだや、ほほほうやい」
と追いかけたと。
 いくがいくがいっても、婿さまは見つからない。そのうち見たことのない山の中に入り込んでいた。
 向こうで、たくさんの小人たちが一本の木のまわりで騒いでいる。近寄(ちかよ)って、嫁ごが、
 「あんただち、何してる」
と聞いたら、小人たちは、
 「これは金の成る木と申すもので、あのとおり大判小判(おおばんこばん)がザングゴングと生(な)っているが枝が高くてとることが出きないで困っている。
 もしもこの木に手を触(ふ)れないで採(と)れたらみんなあげる」
と言ったと。嫁ごは、
 「それでは私が採って見せ申すべ」
と言って、尻を木に向け一発、どかんと鳴らした。その響(ひび)きと屁息(へいき)で大判小判はたちまち地べたに落ちてきて、あたり一面(いちめん)黄金(こがね)の山となったと。
するとその上に何やらどしゃんと落ちて来たものがある。空に吹き飛ばされた婿さまだ。
 婿さまは、今やっとのことで、ここのこの場へ落ちてきたのだったと。
 「やれ、探していもした。おけがもなくて」
と、嫁ごが喜べば、婿さまもまた、
 「はて、探しに来てくれたのか。かたじけない。ところでこの大判小判の山はどうしたものだ」
と、目を見はっている。理由(わけ)を聞いた婿さま、
 「屁も一徳(いっとく)、何事でも上手になればこの上もない」
と言ったと。
 嫁ごの屁のおかげで、この婿どの、思わぬ分限者(ぶげんしゃ)となったと。

  どんとはらい。

 

 

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