月の光★太陽の涙

太陽に照らされて光り輝く月のように・・・
和也と仁・・・

『 瞳の軌跡 』 最終話

2009-07-10 20:07:47 | Weblog




和也の瞳から完全に光が奪われてから

俺たちは一緒に住むようになり1年が過ぎようとしていた

通いなれた学校までの道は 行き帰りの電車以外は和也は一人で

行動し 学校内では仲間や先生がサポートしてくれていた

一時は絶望の淵に立たされながらも和也は絵を描くことをやめなかった

それどころか 全く見えない人間が描いているとは思えないほどの作品に

俺も回りも驚くほかなかった

生まれ持った感性なのか 見えなくなってからの方が観る者に感動を与える

繊細なタッチの油絵を描くようになっていた

そして ある有名な絵画店の店主はその才能に惚れこみ

和也が描きためた絵を展示させてくれと頼みにくるほどだった

そして無名の一学生の小さな個展は 

「盲目の若き画家」 と小さな評判をよんでいた



和也の目はもう一生見えないと思っていた俺は

角膜移植という選択もある事を知り 勧めてみた

完全に光を失っている和也の目には

適合する条件と成功率が低いとう判断もあったが

それでも俺は 少しでも望みがあるのなら

どんな事をしても視力を戻してやりたかった

でも和也はそれを頑なに嫌がり 首を縦に振ることはなかった



そしてあの日以来 尚樹は学校に来なくなり いつの間にか退学届が出されていた


和也の部屋を引き払い 俺のアパートで暮らすようになってからは

毎日寝る前に二人でシャワーを浴び その日の出来事を

お互いの体を洗いながら話をする事が習慣になっていた

「 和也 あんまり無理すんなよ ひとつの絵完成させんのに

寝る時間削るの オレ許さねぇからな 」

「 無理なんかしてないって・・ 筆を握ったら途中でやめたくないだけだよ 」

「 それが無理だって言ってんだよ 体壊したら

 その好きな絵だって書けなくなるんだからさ 」

「 心配症だな仁は 平気だってば それに・・・俺 嬉しいんだ 」

そう言うとクスっと笑い俺の膝の上から立ち上がった

「 何が嬉しいんだよ 

 あっ!和也 まだちゃんと流してないだろ ほらこっち向けって 」

「 大丈夫だって 平気だよ  」

髪の毛にシャンプーの泡を付けたまま湯舟に飛び込もうとする和也の腕を掴み

頭からシャワーをかけてやる

「  痛いっ !」

「 ごめん! 大丈夫か !」

目を押さえて しゃがみ込んだ和也の体を 俺は慌てて抱き抱えた

「 痛いのか? ・・ごめんな 」

押さえていた指の間から いたずらっ子のように見つめる和也の瞳が

まるで見えているかのように俺の目を捉えた

見つめ潤むその目に 俺はいつも心臓の鼓動を早くしなければならない

「 ぷっ  ひっかかったっ ウソに決まってんじゃん ぜんぜん痛くないし 」

「・・・・・・ 」

「 怒ったの?仁  」

「 お前なぁ 目に何かあったらってマジでビックリしたんだからな! 」

「 大丈夫だよ・・もうこれ以上悪くなりようもないんだしさ

 仁は 心配し過ぎなんだよ  」

俺はそのまま裸の和也を抱きあげると風呂場からベットに直行した

「 仁! 拭かないとべットが濡れちゃうよ 」

「 いい! ビックリさせやがって 頭きたから拭いてやんねぇ! 」

「 仁 ごめんってば・・・ 」




 
毎晩一緒に入っているのに 和也の綺麗な体にいつまでたってもドキドキする自分がいた

濡れた髪と白い透きとおるような肌に光る雫が男の欲望に火をつけてしまう

両手で俺の顔を探すお前の不安そうな瞳が切なくて 

少しだけ開いた濡れた唇を 奪わずにはいられなくなる

でも俺は わざとその唇を少しだけ掠っただけにし

両手で少し乱暴に和也の膝を開いた

「 あぁっ・・んっ・・仁っ あっ・・」

せっけんの香りがする和也自身をいきなり口に含んで舌を這わせる

いつもとは違う俺の愛撫に和也の背中が仰け反ると

まだ乾いていない体に付いた水滴が曲線を描く柔肌を

滑るように落ちると 真っ白なシーツに吸いこまれていく

「 仁 キスからして・・あっ・・んん・・」

何度も指と舌で責めながら 俺を欲しくてたまらないように仕向けて行く

感じ始めた和也自身が熱く熱を持ち始め大きくなり出したと同時に

ここでも俺はわざと口を離した

「 はぁぁ・・・・仁 やめないで・・さっきの事謝るから 」

「 この先は 和也次第だから 」

「 ・・・えっ 」

「 和也は その眼で俺をまた見たいとは思わないのか? 」

「 ・・・・・・・仁・・」

「  俺は お前にまた光を取り戻してやりたい

 和也の絵を見て 感動してる人の姿を見せてやりたいんだ 」

「 仁ずるいよ・・・何でこんな時に言うの  お願い・・欲しいから

 仁 来て・・ 」

手を伸ばし片方の手で俺の髪を触り 

もう片方の手で俺の唇を探す和也の顔が 

苦しげに切なく 次の愛撫を求める

「 なっ和也 手術受けような・・俺はお前と一緒に同じ風景を見ていたいんだ

 受けるなら・・・  」

俺の唇に触れる和也の指を軽く噛み 返事を求める

次の瞬間 唇を噛みしめ俺を見つめる和也の瞳から 

怒りとも悲しみともつかない大粒の涙がポロポロ溢れ始めた

「・・いやだ  いやだよ! こんな目なんかずっと見えなくたっていい!

見えなくたって絵は描けるよ!

俺の絵を見て感動する奴の顔なんか見たいとも思わない!

仁だけが見てくれればそれでいいじゃんっ

見えないこの目の奥で仁の顔はちゃんと再生されてるんだよ!

仁の目に見えるものを俺に教えてくれればいいだけの話じゃじゃないかっ 

手術なんかしたくない 絶対しないから! 仁なんか嫌いだっ

 仁なんか・・・・・」

震える声を荒げてそこまで言うと 和也は俺の手を払いのけ

体を丸め背中を向けた

「 和也・・・ 」

初めてかもしれない・・・・

和也がこんなに 自分の気持ちを伝えてきたのは

俺の手を払いのけるほど嫌だったのかと正直ショックだった

ベットのすみっこに体を丸めた和也の肩にそっと手をかける
 
「 ごめんな・・・こんな事して こんなに嫌なのにな

 俺 お前の気持ち全然分かってなかったんだな・・・ 

 もう言わないから ・・」

和也の背中に俺は自分の体をピッタリ寄り添わせ両手で強く抱きしめると

泣き震える和也の小さな声が聞こえた

「 ・・・この目が見えるようになったらさ・・・

どんなに嬉しいか・・俺の大好きな仁の顔が見えたらどんなに嬉しいか 」

「 もういいいよ和也 もう手術しろなんて言わないから 

 こっち向けよ 」

「 違うんだ・・・ シャワー浴びてる時俺 嬉しいって言っただろ?

 仁は 眼が見えない俺の事 すげぇ心配してくれるし大事にしてくれる 

 それが嬉しいんだ 仁の頭の中をいつも俺の事でいっぱいにしてて欲しいんだ

 でもさ・・・・・

 もしこの目が見えるようになったら・・もう心配もしてくれないだろうなって

 仁 俺から離れてくんじゃないかって・・・それが 怖いんだ 」


いつのまにか 濡れていた和也の髪の毛が

俺の指をサラサラとすり抜けるほど乾き始めていた

「 和也・・それは反対かもしれねぇな・・・正直言うとさ

 お前の目が見えるようになったら 俺は今まで以上にお前を心配すると思うし

 今まで以上にお前の事だけで頭がいっぱいになるんだよな きっと・・

 キラキラした眼をしたお前を誰かに盗られるんじゃないかって

 新しい世界を見始めた和也が

 俺の手の中から羽ばたいてっちまうんじゃないかってさ

 怖いのは 俺のほうかもな・・・だからそんな心配すんな 

 いっつも言ってるだろ?

 お前にどんな事があっても離れないって いい加減に分かれよ 」

 やっと俺の方に体の向きを変えた和也の顔が嬉しそうに

 微笑んでいた

「 仁・・・・・じゃ もっと俺の事心配して・・」

「 ぶっ・・・・体がもたねぇよ 」

「 今度はちゃんとキスからやり直してよ・・」

俺の首に両手を絡め体を預ける和也の くびれた腰を強く引きよせ

その首筋に唇を這わせる

切ない吐息に開いた和也の唇に何度も・・・

何度も 深いキスを繰り返す・・・・・・




和也・・・・・

今夜のキスは 何でこんなにしょっぱいのかな・・・・・・








・・・・・・・・誰かのためになんて

             生きれないと思った

  こんなに愛しくて 大切なものを 

               初めて見つけた

    どんな僅かでも 君の声聞こえる

            不安で消えそうに

     闇が迫っても  

          ここにいるから・・・


 守りたい この笑顔を・・・・・・・

                 『 RESCUE 』 より抜粋





数日後の新聞の片隅に 

雨でスリップした若い男性のバイクでの事故死が掲載されていた

散らばった彼の免許証の中にまぎれていた 

一枚のアイバンクカードに書かれていたのは

消えかかった 尚樹 という名前だった・・・・・・・







          

【 完 】