rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評 輪廻転生 <私>をつなぐ生まれ変わりの物語

2015-10-21 21:41:33 | 書評

書評 輪廻転生 <私>をつなぐ生まれ変わりの物語 竹倉史人 著 講談社現代新書 2333 東京大学を出て東京工業大学の社会学の博士課程に在学中の著者が社会的にブームとも言える前世療法などの根本をなす「生まれ変わり」の思想について、世界における原始宗教や仏教、19世紀の紹霊ブーム、現代における科学的な探求など多方面からのアプローチで系統的に解説したもの。日本人が違和感なく感じている死生観の中の生まれ変わりの思想についてもこれらの分析から解説され興味深いものになっています。

 

死者の魂が後の世に他人の肉体を借りて生まれ変わってくる、という思想は常識としては考えられないものですが、前世の記憶を持つ子供達が世界中に古代、現代を通じて存在することも事実であり、刹那を生きることから判断をする他ない我々にとっては、それが真実、或は嘘と断定することはできません。著者はこの生まれ変わり思想のパターンを大きく3つに分類して解説しています。

 

再生型

自然の中で土や木、水となった後に再び魂が生を得て未来の同族の中に戻ってくるというもので、世界各地の原始宗教に同様の類型が見られるとされます。

 

輪廻型

古代インドを起源とし、仏教などでも語られるもので、因果に基づいて人は修行のために現世に繰り返し送られてくるというもの。霊魂は必ずしも同じものが繰り返し使われるとは限らないとされる。

 

リインカネーション型

プラトンなどに発し、19世紀の紹霊などで「霊の書」としてまとめられ、現代においてはスピリチュアルブームに乗って人は生まれ変わることで進化をしてゆくとする考え。キリストの復活を意味するリインカネーション(再受肉)が語源ですが、一神教においては神が創造した人間が勝手に何度も再生するという思想は許されないはずで、敬虔なキリスト・イスラム教徒からは支持されないものと思われます。しかし欧米の映画やメディアでは生まれ変わりは「あり」として描かれることが多いのが現実であり、宗教とは別の「生き方指南」としての思想的役割があるとされています。

 

本中の第4章では前世を記憶している子供達の実例がいくつか紹介されていますが、興味深いのは日本にもかなり明確に記録が残るものがあって、米国ヴァージニア大学医学部にあるDOPS(The Division of Perceptual Studies)という公式な研究機関における研究で、真実として確度の高い例の一例目に日本の平田篤胤が「勝五郎再生記聞」として残し、ラフカディオ・ハーンが英訳した例が採用されているということです。日本における生まれ変わりの思想は原始宗教的な「再生型」と仏教の影響による「輪廻型」が混ざった上に最近のスピリチュアルブームによるリインカネーションの概念も混ざっている和洋折衷の考え方が見られると説明されています。確かに死者への弔いは仏教的な物と道教的な物、そして田舎の祭りや盆などの祖霊信仰や招魂に見られる原始宗教的な要素が種々混ざったものを違和感のないものとして受け入れている(確かめようもないので)のが実際と思います。

 

大事な事は「この世で好き勝手なことをして死んだら終わり」ではなく、現在の自分があることを「先祖のお蔭」であると感謝をし、また後の世に別の環境、人格として生まれ変わるであろうことを認識することで、社会への貢献や他人への情愛、自分を磨き善行を積むことを意味ある事と認識できる作用がこの「生まれ変わり」の思想にはあるということだと思います。これは常々「求められる医療は何か」で考察しているように、還りの医療、世の中を次の世代に明け渡す大切さ、といった考えに繋がります。自分達の短期的な利得のために日本の文化や習慣・産業をつまらない貿易協定のために犠牲にしたり、国土を汚染する原発を使い続けたり、戦争によって国民・国土・国富をこれ以上失うようなことがあってはならないのだと思います。

 

本に戻りますが、スピリチュアルな本にみられがちな魂の救済とかそのようなハウツー的、決めつけ的な内容は一切なく、種々の生まれ変わり思想の背景や考え方を淡々と解りやすく解説してある点で優れた内容であると思いました。宗教のみならず、社会科学として霊的なものに感心がある方に一読を勧められるものと思います。


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