から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

彼女が名前を知らない鳥たち 【感想】

2017-11-05 10:00:00 | 映画


こういう日本映画がもっと増えてくれたらいい。久々に痺れる恋愛映画を見た。愛することに憑かれた男と女。狂おしいほどの純愛。立ちこめる人間の臭気。演じる役者陣の凄み。惚れたら最後、恋は人を盲目にするというけれど、人はこうして同じ恋愛を繰り返していくのだろうか。

主人公は同姓している年の差カップル。若い女性(といっても30代前後か)と中年の男性という、最近よくあるパターンだが、本作のカップルは恋仲という関係から程遠い。男が一方的に女を好いている様子で、女は男を「チンケな能なし」と邪険にしている。女は男のヒモであり、家計、家事、おこづかい等、生活のすべてを男にゆだねている。男は土建屋の現場監督をしていて、不潔で、ガサツで、背が低くて不細工。口をついて出るのは職場の陰口だ。魅力的な点が何も見あたらないカップルだ。

女は男に尽くされることだけに喜びを感じる。しかし肉体関係は許さない。男はそれでも構わない。なぜなら女を愛しているからだ。女は過去に別れた男の未練を引きずる。今の同棲相手とは似ても似つかないハンサムで金持ちだ。ただし、その昔の男からは過去に壮絶な暴力を振るわれている。女はそれでも男との良き思い出に浸る。女はイイ男に目がない。そんななか、日課のように行っているクレーム活動のなかで女は新たなイイ男に出会う。

ここで現れる第三の男。誠実な仮面を被ったゲス男だ。自身の顔が男前であることを自覚し、それによって女を利用できる術を知っている。「妻とうまくいっていない」浮気男の常套句がリアル。主人公の女はその男にまんまとのめり込む。2人の淫らな性行為に、不幸な結末を予想する。案の定、男は女に愛想をつかす。女はまだその男を諦めない。一方で同棲相手は早々に女の浮気を知る。

3者の愛のベクトルが向かい合うことはない。第三の男にいいように弄ばれる主人公の女だが、未練を残す過去の暴力男にも散々利用されていた。過去の失敗から学ばない。というより、それが失敗であったこともわかっていない。よく聞く「ダメ男を好きになってしまう」とはワケが違うほど、本作の主人公は悲惨だ。一方で同棲相手の男は女にひたすら無償の愛を注いでいく。2人とも最善の生き方をしているとは思えないが、これが愛の魔力だと感じる。しかも純粋な愛だ。

恋愛と性欲が、あるときは密着し、あるときは離れる。終始むき出されるのは人間のどうしようもなさ。去年の「日本で一番悪い奴ら」に続き、白石映画を年1で見られる幸福。生身の人間の醜さ、愚かさ、美しさを恋愛映画というフィールドで濃密に描いてくれる。そして、白石監督の演出に応えるキャスト陣のパフォーマンスも素晴らしい。変質的同棲カップルを演じた蒼井優に阿部サダヲに、第三のクズ男役の松坂桃李、過去のクズ男役の竹野内豊と、それぞれがもれなく表現者たる役者の底力をみせる。最後の最後まで彼らの演技に圧倒された。

少し残念だったのは、過去の回想シーンが説明過多であったこと。あそこまで見せるのはタイミング的に野暮で、主人公の2人が辿ってきた思い出の描写は最小限にとどめ、観客側の想像に委ねても良かったと思う。

【75点】

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