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ローガン 【感想】

2017-06-04 15:00:00 | 映画


架空のアメコミヒーローであったウルヴァリンが、人間「ローガン」として現実世界に降りてきた。まさか、こんなアプローチで描いてくるとは。強烈なバイオレンス描写に、強い痛感が伴うシーンの数々は、どのXメンシリーズにも描かれてこなかったことだ。スピンオフシリーズの3作目であるが、最も独立性の高い映画であり、完成度も別格。製作陣、キャストの本気度を感じる。人体を改造されたのち、ミュータントとして正義のために戦ってきた男の生き様を振り返り、その終末が胸に迫る。本作のカギとなる、ちびっ子ウルヴァリンの存在も非常に効いている。ウルヴァリンの魂は未来に引き継がれた。

ウルヴァリンことローガンが、自身と同じ能力を持つ小さい女の子と、遠方にあるミュータントたちが暮らす場所を目指すという話。

舞台は2020年代の未来。あのウルヴァリンがなんと、生活費を稼ぐために、ハイヤーのドライバーをしている。その商売道具である車を盗まれそうになると、その強盗団を蹴散らすどころか、反撃され思いっきり袋叩きに合っている。自身の武器を使って何とか追い払うが、その動きは激しく鈍い。顔面は白髪交じりの髭と深い皺に覆われている。ウルヴァリンにも老いが確実に迫っている。爪を手から出す体質と、驚異的な回復力を除けば普通の人間だ。

爪を出したあとの手の甲には、傷跡が痛々しく残っている。よくよく考えればウルヴァリンは、爪を出すことができる特殊能力ではなく、驚異的な回復力ゆえ、自身の皮膚を突き破って武器を出しても大丈夫という設定なのだ。言い換えると、爪を出す度に自身の体を傷つけているというのが実際のところ。但し、Xメンという痛快さを求めるヒーロー映画においては、そんなことをいちいち描くことは映画の流れを淀ますことになる。シャキーンシャキーンと自在に爪を出して暴れまわったほうが収まりが良い。

本作のウルヴァリンは傷だらけである。回復力が遅い理由は、劇中で語られるものの、そもそも本作の狙いは超人「ウルヴァリン」を描くことではなく、人間「ローガン」を描くことにありそうだ。まさにタイトルのとおり。ローガンの肉体に刻まれた古傷なんて今まで見たことなかった。その現実味は、彼の生活ぶりも色濃く表れていて、かつて、自分を導いてくれたプロフェッサーXこと、チャールズは車椅子のボケ老人になっていて、ローガンはその介護に追われている。孤独だったローガンに「家族」を与えてくれたチャールズはローガンにとって父親のようなものなので、その成り行きに説得力があるが、こんな2人の未来を誰が予想できただろう。

そんな彼らの前に1人の幼い少女が現れる。少女は大勢の武装集団に追われている。可愛く華奢な外見とのギャップが著しく、少女には高い戦闘力が備わっており、攻撃スタイルも極めて凶暴。ローガンと同じく手から爪を出し、襲いかかる大男たちを俊敏な動きで次々と八つ裂きにしていく。少女を捕まえようとする大人たちも手加減せず、モリで少女の体を突き刺し動きを封じようとする。血しぶきが舞い、傷つけられる痛みが伝わる。生死を分かつバトルシーンが凄まじい。



その後、ローガンはチャールズと共に、少女を連れてミュータントたちが残ると言われる遠方の場所を目指す。「少女を救え」というチャールズに対して、ローガンは「無関係」と少女との関わりを拒み、あくまでドライだ。それだけ自分たちが生活するだけで手一杯という状況。要介護の老人と、目が離せない子供の面倒をみるローガンの姿が不憫で可笑しくもある。ローガンにこんな日が訪れるなんて。。。目的地に向かう途中に関わる、農場を営む家族とのささやかな団らんシーンが印象に残る。映画はいつしかロードムービーに変わっていた。

しかし、その道中は平穏を許さない。容赦ない残酷な展開が待ち受ける。襲いかかる強力な敵に立ち向かうのは、老いたローガンの肉体だ。動けば息切れ、肉体に攻撃を喰らえばダメージも大きい。強さよりも弱さが際立つ。Xメンとして活躍したのは過去の出来事。かつての仲間たちはもういなくなっている。その活躍は劇中でも漫画となって、後生に語り継がれているが、もはや都市伝説のようだ。「漫画で描かれているのはファンタジー、リアルはここにある」と少女に発したローガンの言葉は本作をそのまま言い表している。

その後、壮絶な戦いを経て、結末を迎える。それは本シリーズのラストに相応しいものだった。ローガンの生き様を振り返り、熱いものがこみ上げてくる。ミュータントの未来を託された子どもたちが大きくなって、「フューチャー&パスト」に繋がっていくと考えると感慨深い。その他のXメンシリーズも本作を見てからだと、見え方が変わってくるかもしれない。

主演のヒュー・ジャックマンを知ったのは、18年前のXメンのパート1だった。当時、ボリビアに旅行中だった自分はスペイン語字幕でXメンを見るという希有な経験をした。現地の映画館で2回リピートするほどハマり、Xメンシリーズのファンになった。Xメンシリーズの中心キャラがローガンであり、それを演じたヒュー・ジャックマンが映画スターとしてブレイクするきっかけにもなった。ヒュー・ジャックマンにとって特別な役柄であるのは間違いなく、本作に臨む覚悟は並々ならなかったと感じる。思いのこもった素晴らしい熱演だった。

そして本作を成功に導いたもう1つの要因は、ローガンと行動を共にする少女「ローラ」を演じたダフネ・キーンだ。どこかイノセンスな雰囲気と、強い目力が印象的。ローガンに劣らぬ存在感だ。過去のローガンと未来のローラという対局の構図が、映画のテーマを一層鮮明にする。スーパーで万引きした(結局、金を払わんのかいw)サングラスが似合っていて絵になるし、攻撃態勢におけるローガンばりのしかめっ面も可愛い。そして彼女が発するスペイン語に萌える。あのコに「ポルファボール!」って懇願されたら何でも言うことを聞いちゃいそうだ。



北米での絶賛ぶりも頷ける新しいアメコミ映画だったが、いろいろと惜しいと思われる部分も多々あった。ローガンたちと一緒に暮らしていた色白ミュータントがその能力をほとんど出さずに消えたことや、ローガンたちを追う敵のリーダーが指示するだけで無能だったり、カジノでの発作シーンが異常に冗長だったり(距離が長~い)、農場での悲劇の始まりが夢か現実かわからず展開についていけなかったり、「シェーン」のオマージュが狙いすぎだったり、、、と、もう少し別の描き方があったように思う。ローガンの父性も物語の流れからは希薄だったので、個人的には切り離してほしかった。

ウルヴァリンにはもう映画で会うことはなくなるかもしれないが、Xメンシリーズはこれからも継続してほしいと思う。前作の「アポカリプス」では不完全燃焼だったし。
とりあえず、ヒュー・ジャックマン、長きに渡りお疲れさまでした。

【70点】

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2 コメント

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Unknown (Cinetunes)
2017-06-09 10:38:05
ローガンよかったですね!
ウルヴァリンが主役のハードボイルド・ロードムービー。

たしかにカジノホテルでの発作のシーンは観てるこっちも辛かったです笑。
Unknown (らいち)
2017-06-12 12:26:17
はい、ローガン、素晴らしかったですね。アメコミ映画の新形態といっても良いと思いました。しかし、観た人の評判が良い一方で、日本での興行収入が極端に少ないのが残念です。

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