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聖の青春 【感想】

2016-11-26 09:00:00 | 映画


「勝負」とは勝ち負けを決めるということ。普段まったく馴染みのない将棋界においては、勝つことにのみ意味があるようだ。将棋界のスーパースターである羽生善治が「光」であれば、本作の主人公、村山聖は「影」といったところか。まるで共通項のない2人が、唯一共鳴したのは勝負への執念だ。「青春」という言葉とは程遠い、村山聖の短くも鮮烈な生き様を描いたドラマだ。

村山聖という人物については、以前、何かのドキュメンタリー番組を見ていて興味を持っていた。童顔でぽっちゃりとした体形は「ネフローゼ」という難病によるものであり、29歳という若さでの逝去は、その持病を起因とした膀胱がんによるものだ。だが、彼の早すぎる死は、自身が選んだ生き方ゆえに起こったものとも考えられた。

幼少期からの病院暮らしのなかで将棋と出会い、めきめきと腕を上げ、奨励会入会後、異例の早さでプロになった。感じるのは「才能」よりも「負けず嫌い」の性分。自身の持病から人生のタイムリミットを計り、生き急いでいたという見方もできる。「将棋を極めたい」ではなく、「早く名人になって引退したい」というモチベーションが特異だ。彼の目標は生きているうちに将棋界のテッペンをとること。

そのゴールを目指すため、自身の病気のケアよりも勝負を優先する。体調が悪化する状況も無視する。「勝負に生きた」というのは少し美化した言い方だろうか。自分が聞いていた村山聖は風呂に入らない不潔な人という印象が強かった。そして、麻雀とお酒が大好物。映画では演じる松山ケンイチの個性もあって、かなりそのあたりがマイルドに描かれているが、常人には理解し難い偏った思考を持つ「変人」気質が少なからずあったと想像する。

どちらが本当の村山聖なのかはわからないが、本作は伝記映画ではないと思うので実在の人物を再現する狙いはないだろう。映画では主人公が身近な存在として感じられた。それだけに、彼に感情移入しやすくなる。勝負への執念だけではなく、生きることへの執着がきちんと抑えられている。大の少女コミック好きであり(「いたKiss」笑)、恋愛に憧れる感覚を持っている。「死ぬ前に一度でいいから女性を抱きたい」という言葉は常人と変わらぬ男子の本音だ。

そんな主人公の生き様に密着するのが、羽生善治というライバルの存在だ。調べてみたら2人は1歳違いの同世代。互いに火花を散らしていたというより、我が道をマイペースで進む羽生善治に対して、村山聖が一方的に対抗心をむき出していたようだ。当時、前人未到の連覇を若くして成し遂げ、プライベートでも芸能人タレントと結婚するという、充実の人生を送っていた羽生善治の存在は、村山聖の目にどう映っていたか。正反対にある2人の位置づけが物語をドラマチックにさせる。

2人の対局シーンが本作の見所だ。一切の解説なして、彼らの勝負の行方を2人の表情と所作、彼らに注目する周りのリアクションだけで描くのが潔い。静かな空間のなかで、互いの気迫が交錯するのがわかる。将棋のルールを知らなくても迫力は伝わる一方で、知っていたほうが、勝負のダイナミズムを感じられたと思う。将棋盤を前にして、静にして動を表現する、松山ケンイチと東出昌大のパフォーマンスが素晴らしい。

体重大増量で役作りに臨み、新たな村山聖像を作り出した松山ケンイチの熱演もさることながら、そのライバルである東出昌大の羽生善治アプローチがハンパない。対局中、実際の羽生善治を見ているようだった。長身という、本作におけるハンデも感じさせないなりきりぶり。良い役者になったな~と感心してしまった。脇を固めるキャストたちも皆好演。主人公の生き方を肯定し見守る師匠役のリリー・フランキー、村山の弟弟子を演じ、勝負の厳しさを知らしめる染谷将太、一瞬誰かわからないほど一般人と化した筒井道隆など、みんなとても良い仕事をしている。

2人の対局シーンの他に印象深いのは、熱戦の対局後、村山と羽生が2人きりで出向いた居酒屋での一幕だ。対局の場以外で交わることのなかった2人がまともに言葉を交わした唯一の場面でもある。会話の内容は、勝負の世界を離れて互いのプライベートの話に及ぶ。2人の趣味がことごとく噛み合わないのが可笑しい。穏やかな時間が流れるなか、次第に2人の勝負に対する思いが浮上していく。羽生の意外な告白に、2人が同じ時代に生き、ライバルとして対峙することになった運命を強く感じる。名シーンだ。

映画は村山の死までを描く。早すぎる死は悲劇であるが、悲壮感は感じられない。勝負の日々の中に命を燃やした彼の人生は清々しくもあり、彼の青春だったのだと思う。

【65点】

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