臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

「山本登志枝歌集『水の音する』」鑑賞

2017年05月06日 | 諸歌集鑑賞
○  翡翠はぬるめる水に零しゆく色といふものはなやかなものを

○  吹く風はさびしかれども幾つかづつ寄りあひながら柚子みのりゆく

○  書きながら見知らぬ人に書くごとく水に書きゐるごとく思へり

○  青き空そよげる若葉したたれる水の音するそれだけなれど

○  かなかなの声をきかむとだれもみな風見るやうな遠きまなざし

○  花芽大の胎児の写真示しつつ「心臓ばくばく動いてゐたの

○  地震つよく揺れゐるときもみどりごはいのちの泉深く眠れり

○  上目づかひに確かめながら眠りたり腕のなかのいとしきものが

○  夕道を帰りゆくなりあゆみが丘の子の家に点る窓の灯胸に

○  お腹の子がしやつくりしてゐるわかるのと愛しげに手を当てながら言ふ

○  新しき命と出会ひかけがへなき人を失ふ夏のふかみに

○  この秋の句点のやうなひとときか何おもふなく砂浜に立つ

○  をのこごはわが草傷に唱へたりイタイノイタイノトンデイケ

○  月光に照らされゐたる線路ありきどこへ行かうとしたのだらうか

○  死は〈かねてうしろに迫れり〉何ひとつ分からぬことを知るのみなのに

○  生まれたるばかりのみどりご何ゆゑにまぶしがりゐる眉しかめつつ

○  みなどこに行つたのだらう本の背にこの世の名前のこしたるまま

○  幼子をあやしゐたりしがほどもなく撃たれき戦場ジャーナリストの女性

○  羊水のぬくとさならむ池のなかにうつらうつらと蛙の卵   

○  目覚むればあとかたもなしかたはらの天使も天使の羽のにほひも   

○  こすれあひ火と火は痛きことなきやわれのどこかがくろずみきたり   

○  咲いたとか散つたとか夕空がとてもきれいと言ひつつ過ごさう   

○  白梟は目覚めつつをりまつさをな空にかかれる昼月のごと   

○  みどりごのためペットボトルの水お一人様一本といふを購ふ   

○  地下鉄の車窓に霊のごとゐるはわれが離れたかつたわれか   

○  月のミルクを飲みて育つと歌はれし葡萄かスペイン産の一房   

○  幼子をあやしゐたりしがほどもなく撃たれき戦場ジャーナリストの女性   

○  林のなかの落葉どんぐりつかみゐる小さなる手は光もつかむ    

○  オリオン座のきれいな季節めぐり来ぬ吸ひ込まれさう夜更けの空に

○  飛んでしまつた風船を追ひ泣きゐし子腕たくましく四人子の母




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