臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

「蒔田さくら子第11歌集『標のゆりの樹』」を読む

2017年01月04日 | 諸歌集鑑賞
   蒔田さくら子第11歌集『標のゆりの樹』


片靡く大すすき原風すぎておのもおのもに立ち直りたり

もつれあふごと濃やかな鳥のこゑ憂ひなく鳴くこゑとおもはむ

散りて乱るることなくいのち終へし花提げしづかに立つ花菖蒲

一線を越すか越さぬかきはどかる瞬いくたびか超えて永らふ

おさへ込みしづかに内に巻き締めし怒りもありぬ捩花の紅

おさへこみ多くを云はぬはつつしみと矜持にあらむみちのくの人

人ごころ複雑にして心根はわれひと共にあやめもわかぬ

としどしにさくらうたへど足らはざり足らはざるゆゑ生き継ぎうたふ

折り返しかへらむ標と見放け来しかのゆりの樹を誰か伐りたる

おそらくはこれが最後の一花なれ月の雫のごとく 夕顔

過ぎゆけばうするるものと時を経てみえくるもののあるにおどろく

ときに自恃ときに自虐といろ変へて老いの心身あやしつつ生く

死に後れたりとも或るは生き残りたりとも一つ身のをりふしに

泣きたいやうな夕焼けのいろ 日暮れにはこんな素直な衝動ありぬ

袈裟がけに空切るやうな数条の筋雲何の兆しかと見き

ルビありても解せぬ子の名の多き世に業平読めぬと駅名変はる

濡れ衣を着せらる着することもあれこの湿潤の風土に生きて

過ぎゆけばうするるものと時を経てみえくるもののあるにおどろく

またの春恃みて今年のさくら散り変はらぬものと変はりたるもの

誰もみな不安と怖れを抱きゐむと一体感もて立つ交差点

つくづくと言葉の無力を思ひ知るさあれ知るまで深く惟ひき

ことなげに歯科医の説きゐるレントゲン写真はまさにわがされかうべ

二人ありて心強きはいつまでか老い先おもふも二人分なる

またひとり逝きておもへばこの世とふ場に行き合ひし過客ぞ誰も

ああけふは友の祥月命日と夜半に気付きぬゆきてかへらぬ

さるすべり夾竹桃は夏の花 敗れし国を彩ひゐし花

面会の礼と短歌とダリアの絵送り来しのち処刑されけり

詠草に添へ来し赤きダリアの絵いかなる赤ぞ死罪負ふ身の

死刑の是非いふたびおもふ短歌とダリアに執せし人の処刑ははるか

かがまりてもやしのひげ根をとる厨些事にこだはる日は平和なれ

山鳩を聞くゆふぐれをさびしめど帰るべき家まだわれにある

もう少しもう少しといひのぼりゐしかの夢いづこに誘はむとせる

なに色とよばむかひつたりうつそみのひとの命に添ふ影の色

かがやかに没り陽が浄むたましひも五臓六腑もなき人の影


 


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