臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の朝日歌壇から(5月12日掲載・其のⅠ)

2014年05月15日 | 今週の朝日歌壇から
[佐佐木幸綱選]

(富山市・松田わこ)
〇  給食の話ではもうねえちゃんと盛り上がれないそれぞれの春

(新潟市・米倉之子)
〇  もぞもぞとおしり動かしすわる位置探るがごとし4月のクラス

(田村市・荒井正一)
〇  仮設でも蕗のてんぷらおすそ分け戻れぬ里のならわし続く

(筑紫野市・二宮正博)
〇  火葬許可出しつつ思うその内に出される側になる時が来る

(下関市・乗安勉)
〇  教え子の勤める病棟に入院し模範患者のごとくに過ごす

(福島市・井本昌夫)
〇  東電テレビ会議の記録映像あのとき我は給水の列に

(京都市・吉岡節雄)
〇  原発に頼る小さき県庁に新卒の孫は税の職得し  

(神奈川県・九螺ささら)
〇  この星で青いゼリーが固まるとその度あの世に海月一匹

(堺市・稲垣啓子)
〇  ママ鼻がズルブリ言うよ自転車の後ろの吾子が話しかけます

(佐渡市・藍原秋子)
〇  新しい眼鏡で私を見るたびに「うわっ」てどういう意味です?父さん
[高野公彦選]

(三原市・岡田独甫)
〇  攻撃を受けおる友に手を貸さば当事者とならむ国家とて同じ

(山形県・佐藤幹夫)
〇  育児放棄耕作放棄介護放棄われらの放棄はたつたのひとつ

(松山市・宇和上正)
〇  例外に特例異例想定外誇りの九条蝕まれゆく

(東京都・山元泰子)
〇  グーグルの空撮で見し嘉手納基地F22の駐機に身すくむ

(大阪市・安良田梨湖)
〇  一人暮らしだけど一人になりたくて深夜一時のファミレスにいる

(鎌倉市・小嶋陽子)
〇  ちっぽけなこんな私が歌を詠む短歌は吾をどこへ運ぶか

(西条市・村上敏之)
〇  病院に死者の出口のありしこと白衣まとへる父と識りたり

(岐阜県・棚橋久子)
〇  幾年も乾きて眠るネムリユスリカ弱者か強者かさびしい命  

(福岡県・住野澄子)
〇  夜の明けを猪の家族は帰るらむ罠にかかりし瓜坊おきて

(横浜市・松村千津子)
〇  馬酔木咲く垣根をひらりすりぬける猫の残像ほの白くあり
[永田和宏選]

(さいたま市・黛衛和)
〇  親からは二つ離れた吊革で中学生が景色を見ている

(三島市・渕野里子)
〇  死ぬ姉の末期の日本語聞きとれずオランダ人の義兄が泣けり

(筑紫野市・二宮正博)
〇  もう喪主になることは無い母送り散り行く桜見ながら思う

(山陽小野田市・浅上薫風)
〇  戦後すぐ理研という名の弁当箱母が買いけり今も使いぬ

(大阪市・安良田梨湖)
〇  一人暮らしだけど一人になりたくて深夜一時のファミレスにいる

(松山市・二神貴美恵)
〇  城垣をめぐる坂道ゆったりとパンダの顔の園児バス来る

(竹原市・岡元稔元)
〇  人生の大事を決める折々に妻の意見が九割しめる

(川崎市・大平真理子)
〇  少しずつ右親指が押さえゆくページ増えきて本読み終える

(塩釜市・佐藤龍二)
〇  夢摑むことも果たせず離京せし<明日のジョー>も六十五歳

(富山市・松田わこ)
〇  給食の話ではもうねえちゃんと盛り上がれないそれぞれの春
[馬場あき子選]

(富山市・松田梨子)
〇  晴れやかな気持ちできたての友達と桜の下で交わすおはよう

(水戸市・中原千絵子)
〇  わだかまり少なき少女の片恋のようにゆるりと巻く春キャベツ

(浜松市・松井恵)
〇  天平の貴人召されし蘇を食めば素にしてほのか古代の甘さ

(小城市・福地由親)
〇  連絡船花嫁の来る耶蘇の島霞む中より手を振る人よ

(摂津市・内山豊子)
〇  留守番の掃除ロボット動き出す音を聞きつつ買物に行く

(横浜市・寺口敏勝)
〇  原発の廃炉敷地の汚水槽墓標の如く見えて悲しも

(高島市・久保眞理子)
〇  兵児帯も白絣をも注釈を入れられるとは漱石知らず

(帯広市・吉森美信)
〇  小豆の餡蕎麦粉の衣の柏餅つくりし母亡く柏は茂る

(つくば市・小島陽子)
〇  じいちゃんの春の畑が始まった頭の中は野菜でいっぱい

(前橋市・荻原葉月)
〇  あらかたの竹の子の穂は食はれゐて獣の置き土産ある竹藪