田舎者の映画的生活

田舎町に住んでいるナースが
何とか文化的生活を送ろうと
悪あがきしながら見た映画の感想の数々です。

映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」

2017年05月20日 | 映画・本
ボストンで、アパートの修繕や雪かきなど、
便利屋として働いているリー。
ある日、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーから、
兄のジョーが倒れたという連絡が入る。
元々心臓病を患っていたジョーは、
リーが駆けつけた時にはすでに亡くなっていた。
葬儀の手配や、ジョーの息子のパトリックの面倒を見るために、
しばらくぶりに故郷に滞在するリー。
そこで、忘れたくても忘れられない過去と向き合うことになる。
監督・脚本はケネス・ロナーガン。

この映画のキャッチコピーが
「癒えない傷も、忘れられない痛みも、その心ごと生きていく」という言葉で、
まさにこの作品の本質を表していると感じた。
人は誰しも傷つき、それを癒すためには誰かの温もりが必要で、
そしてちゃんと感情を表出して「泣くこと」が大事なんだと気付かされる。
傷が癒えなくても、人は生きていかなければならなくて、
誰もがその生きるという困難を、簡単に乗り越えられるわけではない。
思いがけず、ジョーの遺言で、高校生のパトリックの後見人になり、
生活を大きく変えなければならない選択を迫られたリーが、
最後に選んだ形は、彼の人生での精一杯の努力と、
彼の心の傷の大きさを感じさせるものだった。

彼をそれほどまでに傷つけた過去の出来事は、
時系列に描かれるのではなく、現在と過去が交差して物語の中で語られる。
その脚本、構成が実に巧みで(アカデミー賞の脚本賞を獲得)、
よりリーの悲しみを浮き上がらせていた。
リーが故郷と決別することになったある事件は、
物語の中盤で描かれるが、「アルビノーニのアダージョ」の曲にのせて、
メロディが徐々に熱を帯びていくかのごとく、
その悲劇が観る者の心にぐっと入りこんでいく。
決して誇張されてるわけではないのだけど、
それは本当に胸を締め付けられる辛さだ。

リーを演じたケイシー・アフレックの、
独特の抑制を効かせた演技が素晴らしい。
決して善人というわけではないけど、
兄や甥っ子を想う優しさを持ち合わせていて、
それでいて抱えている重荷を持て余すジレンマに振り回される、
複雑なキャラクターを見事に演じていた。
また、高校生のパトリックは、
よくある親を亡くした思春期の少年のそれではなく、
親が亡くなっても、学校に行き、バンドの練習をし、
二股をかけているガールフレンド達とデートする。
今時の若者を、ルーカス・ヘッジスが好演。
けれども、幼い分、自分でも意識できない悲しみをうまく消化できず、
パニックに陥る。パトリックが冷凍庫を開ける場面からのエピソードは、
彼の心の傷の大きさを垣間見る、何とも切ない場面だった。

派手ではないけど、圧倒的なリアリティと、
人々のそれぞれの優しさと、誰かを思いやる気持ちの温かさを感じさせる、
素晴らしい人間ドラマだった。
美しい、マンチェスター・バイ・ザ・シーの景色も忘れがたく、
物語にマッチしていた。
様々な出来事を経て、新たな絆を作り上げたリーとパトリック。
ラストの2人の会話のやりとりに、泣かされてしまう。
ほろ苦くも温かなラストの余韻は、何度も味わいたくなる。
上半期のベストの作品。
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