田舎者の映画的生活

田舎町に住んでいるナースが
何とか文化的生活を送ろうと
悪あがきしながら見た映画の感想の数々です。

映画「怒り」

2016年10月18日 | 映画・本
八王子である夫婦が殺される事件が起きる。
現場には血で書いた「怒」という文字が残されていた。
犯人は整形で顔を変え逃亡。
事件から1年が経つ頃、千葉、東京、沖縄にそれぞれ、
素性の知れない3人の男が現れる。
千葉の漁協で働く洋平の前に現れた田代は、
家出して戻ってきた洋平の娘の愛子と交際を始める。
東京に住むエリートサラリーマンでゲイの優馬は、
新宿で無職で宿無しの直人に出会い、一夜限りの関係のつもりが、
やがて直人と同居することになる。
沖縄の離島に転居してきた泉は、同級生の辰哉と無人島に遊びに行くが、
そこでバックパッカーの田中と出会う。

事件の真相にはふれてませんが、
この映画は、絶対にネタバレなしで見た方がいいので、未見の方はご注意を。

映画を見て泣くことはよくある。悲しさだったり、
恋愛を疑似体験して味わう感情だったり、それは様々なのだけど、
心が動かされることを感動と言うならば、
映画を見て感動して泣いたのは、久しぶりだったような気がする。
悲しさでも、安堵でもない、不思議な感覚。
ラストシーンである人物が見せる、怒りなのか苛立ちなのか、あるいは決意なのか、
色んな感情が入り混じった叫びと表情を見た時に、自然と泣けてきた。

冒頭の凄惨な殺人事件現場の描写から、最後まで、まったく目が離せない。
不快感にも似た、重い感情と緊張感がラストまで持続し、
研ぎ澄まされた空気感を味わえる。
千葉、東京、沖縄の、まったく接点のないエピソードが、
ランダムに展開されていくのだが、その移り変わり、見せ方が絶妙で、
それでいて緊張感が途切れることがない。
編集のリズムやテンポ感が物語に見事に調和している。
それぞれの土地で、得体の知れない男性と出会い、関係性を深めていきながら、
次第に相手の素性に疑念を抱き始める人達の感情の変化を、
徐々にボルテージを上げていくように、同時進行でうまく見せていく。
ミステリーというには、伏線らしきものも、謎解きもない異色作だけど、
味わえる緊張感やドキドキ感は極上のサスペンスだ。
千葉の田舎町の雰囲気、都会の喧騒、沖縄の澄んだ海と空の色、
それぞれの土地の空気の違いがしっかり画に現れているのもいい。

監督と脚本を手がけたのは李相日。
吉田修一原作の作品を映画化するのは「悪人」に続いて2作目。
厳しく細かい演出で評判の李監督だが、俳優達の素晴らしい演技を引き出している。
若手からベテランまで、実力派と言われるスター俳優が
キャスティングされている群像劇だが、
みんな凄みを感じさせる演技を見せてくれている。
特に印象的だった俳優をあげると、千葉編で愛子を演じた宮あおい。
いつもは何を演じても宮あおいという感じだったが、
今回は体重を増やし肉体改造を経ての役作り。
詳しくは語られないが、洋平の「あの子は普通と違う」という言葉に、
愛子の知的レベルの低さを伺うことが出来る。
その微妙なニュアンスと感情を溢れさせる演技が見事。久々に宮あおいがいいと思った。
沖縄編では、少女から大人へ成長する変換期ならではの、
瑞々しさを体現した泉役の広瀬すずが良かった。
泉に訪れるある悲劇。見ていて目を背けたくなる辛い場面。
演じる方も相当きつかっただろうということが伺える。そのチャレンジが素晴らしい。
バックパッカーの田中を演じた森山未來は、その振り幅の広さに驚く。
どんな役にも染まれる事ができ、森山未來の色を消すことが出来るのが、
この人の凄いところかもしれない。
東京編でゲイのカップルを演じた妻夫木聡と綾野剛の色気も良かった。

人間の抱く怒りという感情は、人によって表現したり、しなかったり。
また他者との関わりの中での、ちょっとしたすれ違いやボタンのかけ違いで、
様々な感情が怒りに変化するのだということを感じた。
また、人を信じることの難しさを、この物語は描いている。
人間の感情の機微や、本質を丁寧に描いた力作だと感じた。
クライマックスで、堰を切ったようように溢れ出る感情、
この味わいはなかなかない映画体験だった。
ラストに一筋見える希望の光にも心を打たれる。

ぜひ原作を読んでみたい気もするが、
「悪人」の時は、映画を見た後に原作を読むと、原作があまりに秀逸で、
映画の魅力が半減した気がしたので、今回は迷うところ。
原作を読んだ方の感想を聞いてみたい。
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