別所沼だより

詩人で建築家 立原道造の夢・ヒアシンスハウスと別所沼の四季。
     

勿忘草の思い出

2008-09-26 | こころ模様

  ほんとうに悲しいお知らせをいただきました。  とても信じられません。 

   木下先生は、 いつも明るくお元気でした。 気さくに 何処でお会いしても 必ずお声をかけて下さって、 作詞の秘訣など伺ったこともあります。 その日も散歩の途中ばったりお遇いして どんな風に詩が生まれるのか、 興味を持ってお尋ねしたのです。

 先生は、 嬉しそうに手帳をお出しになって。  こころにふと浮かぶことば、 胸に響く言葉を 聞いたり、 目にしたときは必ずメモします。 びっしりと書かれたページを広げて見せて 「歌の候補が こんなにあります」 と 仰ったように思います。 (このとき) 構想は七〇曲ほどもありそうでした。 とても意欲にあふれかがやいていらっしゃいました。

                 -☆-

      別れても 別れても 心の奥に
     いつまでも いつまでも
     憶えておいて ほしいから
     幸せ祈る 言葉にかえて
     忘れな草を あなたに あなたに      作詞 木下龍太郎

  以前から好きな歌でした。  そのころ書いた日記から拾います。  前年の早春、 お宅の前を通りかかると小さなブルーの花がこぼれるように咲いていたので、 そのことについて お尋ねしたのです。

                  -☆-

  こんど越してきた方は 作詞の先生。  朝のご挨拶からはじまって、 ことしの春には、勿忘草が話題になりました。 
  『もう芽を出してこの通り、さしあげましょう。 ほっといても種がこぼれて、どんどん増えますよ』  
  『どうぞ!』  有無を言わせず三株も掘りあげてくださったのです。

  シャベルに手のひらを添え、 ほどけそうな土をかばいながら、 足早に門をあけ出てこられる。 「いいえ 見せて頂くだけで」 と言いながら、 ちょうどゴミ当番でネットを回収していた私は、 とっさに、 ほんとうに失礼なの。  手にしたちり取りを差し出し、 その上にうやうやしくいただいてしまいました。 

  ほくほくの崩れそうな塊から、 根の毛細管が元気にのぞいている。 葉はウサギの耳のようで、 いましがた貰ったばかりの水滴がキラキラと光ってた。  触れると柔らかく、 銀色のうぶ毛がやさしくはずんで、 指先にネルのように心地いい。それは、 とても懐かしいようなぬくもりを伝え、 しーんとからだを流れ、 胸の奥にしみていくようなの。 ああこの感じ ご厚意も忘れないでいよう  勿忘草だもの。(2004)

          -☆-

  お返しに、 育てた薔薇を朝早く花束にして、 袋に入れ小さなメモを添えてお宅の門扉に提げておきます。 やがて 特別の 朱い罫の原稿用紙に万年筆で認められたお礼状が届くのです。 うちの郵便受けまで 配達は きっと奥様でしょう。  お心のこもった大きな字で書かれていました。 お忙しいのに、 決まって温かなお返事をくださいました。  

 

  TVで 先生の歌が流れると 家族でしんみりと思います。 まるで昨日のことのように話し合います。 満面の笑みをいつまでも忘れません。
  
  木下先生
    ご冥福をこころからお祈りいたします。 ありがとうございました。

 

 

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4 コメント

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憶えておいてほしい (boa !)
2008-09-29 07:39:41
勿忘草のロマンチックな名前に惹かれて、昔昔の思い出草に買ってきたのですが旺盛な繁殖力でした。
期待した水浅葱の色よりもほんの少し濃い色目でした。
蛙さんの思い出の中に、可憐な花の姿と色合いで、忘れられることなく咲きつづけることでしょうから、亡くなられた方も幸せだと思います。
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みそらのいろの水浅葱 ()
2008-09-29 15:46:49
ほんとうに …可憐な花の姿と色合い…ですね。はかなげと思ったのに、やんちゃな瞳のようにこちらを見上げます。思いがけず… 繁殖力旺盛で色も濃く。あれから我が家でも毎年咲いてくれます。

「忘れな草をあなたに」木下龍太郎作詞・江口浩司作曲
別れても 別れても 心の奥に
いつまでも いつまでも
憶えておいて ほしいから
幸せ祈る 言葉にかえて
忘れな草を あなたに
あなたに

いつの世も いつの世も 別れる人と
会う人の 会う人の
定めは常に あるものを
ただ泣きぬれて 浜辺に摘んだ
忘れな草を あなたに
あなたに

喜びの 喜びの 涙にくれて
抱イダき合う 抱き合う
その日がいつか 来るように
二人の愛の 思い出そえて
忘れな草を あなたに
あなたに

 歌詞のように いつまでも印象深く残ります。
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素晴らしい思い出草 (sora)
2008-10-01 10:55:38
歌詞をしみじみと読みました。そして口ずさみました。誰もが歌えるしみんなの心の襞に触れるような心の歌ですね。
いい歌と蛙さんの素敵な思い出…。
人の出会い…これは偶然であったかも知れませんのに、その偶然を活かされてとても良いふれあいを頂いたこと、私の体験ではないのに、何だかこちらまでほんのりと温かくなりました。
勿忘草の歌はかなり昔の歌かと思っていましたが、作詞家の木下龍太郎氏は思っていたほどお年寄りではなかったので、新しい歌だったのですね。
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な忘れそ ()
2008-10-01 18:13:22
「釧路湿原」で日本レコード大賞の作詩大賞を受賞なさいました。

「鳥取砂丘」「釧路湿原」「五能線」「熊野古道」平成15年から日本レコード大賞金賞を4年連続受賞だそうです。

 こころ深く温かい詩に、全人格が現れています。書かれる文字も大きくて元気でした。 立派な好いお仕事をなさっていらしたので、ほんとうに残念です。 いつまでも忘れません。
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