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掃討具S-10回収〜日向灘・掃海隊訓練

2015-12-17 | 自衛隊

水中航送式機雷掃討具S-10、通称「えのしまくん」(わたしが勝手に命名)
が海中に無事投下されました。
投下したというより「進水した」といった感じの慎重さでしたが、
海に放たれ、まるで怪我を治してもらったイルカのように泳ぎだしたえのしまくん、
あっというまに我々の視界から姿を消しました。

「ここからは中のモニターで見ていただいた方がいいです」

案内の第41掃海隊司令の言葉に、我々はほっとして(寒かったし)
艦橋の中に入りました。



艦橋に戻ってみれば、いつの間にか全員が戦闘服で任務についています。
こういうフル装備の自衛官を見るのは、映画やアニメ以外のリアルでは初めて。

掃討具S-10は、自走式でカメラを搭載しており、その映像は艦橋と
C ICのモニターに映し出されます。
ただし、「いろいろとありますので撮影はご遠慮ください」とのことでした。

今回のレポート連載中に掃海隊関係者から補足をいただいたのですが、
その際、やはりあまり細部にわたって書かないでおいた方がいい、 
ということも、特に防衛の観点からあるということを教えていただきました。

(ですから「ぶんご」副長の解説で聞いたことも、 全ては明らかにしておりません)



えのしまくんが一生懸命ターゲットに向かっている間、
「えのしま」の周囲では訓練を行っている僚艦の姿がありました。

これは掃海艇「あいしま」。「すがしま」型掃海艇の8番艦です。




こちらは10番艦の「みやじま」。

「あいしま」「みやじま」共に、横須賀の自衛艦隊隷下の掃海部隊である
掃海隊群に属する呉所属の掃海艇です。

掃海隊の組織というのは、一般人にはすさまじく分かりにくいのですが、
「自衛艦隊」というのは各地方隊と同じく、防衛大臣の直下にあり、
横須賀にありながら「横須賀地方隊」とは別の同位組織であるという・・・。



ブリーフィングでも組織図が出てきて解説されましたが、
これを見てもそのときには正直さっぱり訳がわかりませんでした。
災害派遣の記事から引用した、

災害派遣の正面ではない、呉、佐世保、舞鶴の
各地方隊所属の水中処分員の応援を要請した。

という意味がわからなかったのも当然ですね。
そこで、コメント欄の雷蔵さんの

掃海部隊だと、第1、2、51、101掃海隊が全国区の掃海隊群で、
それ以外が地方区になりますが、掃海隊群司令が指揮出来るのはこれだけで、
その他の掃海部隊や各総監部の水中処分隊は、各地方総監の指揮下で、
掃海隊群司令は動かせません。

という説明にいまさらはたと納得させられました。

護衛艦隊は「全国区」で、地方区で対処できない事態が起きた時に対応する、
という言い方だと大変理解しやすかったです。

要は、指揮系統を一系にしないということが危機管理となっている、
とわたしは理解したのですがそういうことですか?



左回頭している「あいしま」くんですが、後部がほとんど海中に没しそう。
いかに海がうねっているかってことです。
写真で見ても、波頭に白波が立っているので、かなりの荒れだと判断できます。



ぐるっと回頭していく「あいしま」くんとすれ違うヘリコプター。
ヘリの離着艦も訓練項目に含まれている作業です。



ヘリと「あいしま」の距離はほとんどなく、テールとマストが接触しているみたい。
画面右側の海面には、すでに水中処分員のボートが待機しているのが見えます。

この後行われるヘロキャスティングでは、ホバリングしているヘリから
EODがラペリング降下して作業を行いますが、その際も海面に待機して
いざという時のために人員を配備しているのです。



ヘリがずっとホバリングしていたのは「うらが」の上空でした。
「うらが」の後ろにいるのは「ししじま」。
沖縄基地隊の所属で、今日の訓練が終わったら帰還だと聞いた気がします。



降下を行うためか、超低空で移動するヘリ。
海面からはローターの巻き上げる海水が白い水煙を作っています。

 

そこに(わたし的に)すっかりおなじみの掃海母艦「ぶんご」さんが。
皆が行動海面でうろうろしているのではなく、それぞれなんらかの
訓練を行うために移動をしているのだと思います。



「うらが」とすれ違う「ぶんご」。

訓練海域は大変広く、海上自衛隊は地元の漁協や港湾と連絡を取り合い、
商業船や漁船が一切入ってこないようにして訓練を行うのですが、
それがあまりにも広すぎて、23隻だというこの日の参加艦艇のうち、
わが「えのしま」の周りで訓練を行ってそのすがたを見ることができたのは
ほんの一部でしかありませんでした。

「うらが」はこの後「えのしま」と接舷する予定になっていたので、
近くにいるのは当然ですが、「ぶんご」を見られたのは嬉しかったです。

さて、艦橋内の小さなモニターでは、掃海具「えのしまくん」が捉えた
カメラの映像が映し出されていました。

「あの白く見えるのが訓練のために設置されたダミーの機雷です」

白黒モニターの(流石にカラー映像ではない)不鮮明な映像が
白くぼんやりと光る四角い対象物を捉えました。

えのしまくんは、この「機雷」を見事に見つけ出したのです!

ばんざーいヾ(。。*)ノ 

この「見つけ出す」ということがすでに凄いことだったわけですが、
わたしも含め、報道陣は画像をボーッと見つめ(撮影禁止なので)
あまりその凄さについてはピンと来ていないように見えました。

えのしまくんはソナーと識別カメラで機雷を見つけ、
係維索切断器で索を切断するか、沈底機雷処分用爆雷で処理するか、
浮上型処分用爆雷といって、係維索切断器と同様に係維索にはめ込むと、
係維索に沿って上昇して機雷を爆破処分するもので処理します。

ところで、わたしは今回の訓練に参加することが決まった時、

資料として読むことを勧められた「世界の艦船」の掃海艇特集で、
機雷を処分する水柱が上がっている写真を見て、てっきり日向灘でも
こういうことをやってくれるのだと思い込んで行ったのですが、
日向灘や伊勢湾の訓練はあくまでも設置訓練がメインであり、
実際の爆破処分を訓練として行うのは、硫黄島での「機雷処理訓練」
だけであるということに、この瞬間ようやく気付いたと告白せねばなりません。

漁場であり商業港である日向灘で、そんなことできないよね常識的に考えて。

後で考えると当然なのですが、参加するまでは、

「ニコン1のモーションスナップショットなら
爆破の瞬間などの撮り逃しが絶対ないらしい!」

などと密かに作戦を練ったりしていたのでした。(−_−)・・・



S-10の揚収まで、見張りを厳となしている艦上の隊員。



装備をアップ。
手に持っているのはやはりマイク?



揚収作業がいよいよ始まります。

隊員が手にしているオレンジ色のコードは、誘導電線。
動力用の送電線と信号伝達用の光ファイバーを一体化したもので、
母艇の艇尾から出されており、「えのしまくん」の後部に結合されています。



あたりのあった魚が引き上げられて海面に見えるのと全く同じ図(笑)
これはでかいぞ!



カメラマンが写真を撮っているところは
後部甲板より一段上の部分です。
投入の時にはわたしもここにいて、カメラマンの皆さんのうしろから
カメラを突き出すようにして撮影したのですが、
今回はそれを避けて、
ひとり上の階に上がってそこから撮りました。



ここなら乗組員の作業の邪魔にもならないし、こんな写真ははっきり言って
下の階からだと角度的に撮れなかったでしょう。
というわけで、わたしはひとり、無欲の勝利をかみしめたのでした。

別に誰と戦っていたわけでもありませんが。



自衛隊では釣りのことをF作業というそうですが、これも一種の「F的作業」です。
巨大マグロの世界記録は680キロ、えのしまくんは身が詰まっているので、
こう見えて995kgもあるそうですが、大きさ的にはほとんどクロマグロと同じくらい。



えのしまくん、海面に浮上。




繊細な機構を搭載しているので、慎重に引き揚げを行います。




揚収作業のために上半身をほとんど外に乗り出している人あり。
こんな作業をしているのにヘルメットなしとは・・・。

と思って拡大してみたら、新聞社のカメラマンでした(笑)
カメラマン魂ってやつですか。




とりあえず海上に引き上げた後は、空中でクレーンの向きを変えます。




ぐいーんとえのしまくんがこちらを向きました。

お、えのしまくんの前下部にそりみたいなのが見えるけど、
これはカメラとセンサーを保護するためのものかな?

ちなみに、S-10の胴体下には、処分用の爆雷を1個吊り下げることができます。



顔の前部の黒丸の部分がセンサー、その下に見える

丸い三つの筒の真ん中がカメラ、その両脇がライト。(多分)

前面上部のお重箱みたいなのが、搭載している処分具でしょうか。




ともかく無事に帰ってきたS-10えのしまくん、機雷も無事掃討した
(ということになった)ようです。
これで掃討具による訓練の見学を終え、次はいよいよヘロキャスティングです。

ところで、この黒い網の提灯みたいなのも信号標なんでしょうか。


続く。