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●藤崎慎吾 『鯨の王』 (スタンバイ・ブックナビ)

2007-06-14 12:39:46 | ラジオ
藤崎慎吾 『鯨の王』 文藝春秋 1890円
(=文芸批評家の北上次郎さん)です。

★藤崎慎吾の新作は、読み始めたら止められなくなる海洋小説の傑作。前作『ハイドゥナン』は、『日本沈没』の近未来版ともいうべき本格SF作品で面白かったが、今度の舞台は水深4000メートルの深海。そこにマッコウクジラよりも巨大な海獣、シロナガスクジラをはるかに凌ぐ全長40mの巨大な新種クジラ、ダイマッコウが出現するのである。その探索と戦いがとてもリアルに活写される。

★アメリカ海軍の攻撃型潜水艦「ツーソン」が太平洋マリアナ海溝付近の海域で襲われるのが発端。乗組員たちが突然頭から血を噴出して謎の死を遂げたのだ。一体何が起きたのか?一方、小笠原海域の水深4000メートルでは巨大な クジラの骨が発見される。これまで知られていたマッコウクジラよりも何倍も大きく、オオマッコウと名づけられるが、この骨が何者かに盗まれる。

★このオオマッコウをめぐって財閥の研究チーム、アメリカ軍、テロリストが息詰まる争奪戦を展開する。主人公は財閥チームの一員として研究をすすめる立場。しかし、様々な困難が待ち受けている。

★まずディテールの秀逸さに圧倒される。これが第一。たとえばマッコウクジラはうさいというくだり。彼らの鳴き声はやかましく、間近で聞くと鼓膜が破れるという。平均で一九〇デシベル。これは目の前でジェットエンジンの音を聞いているのと同じらしい。最高で220デシベルという記録もあるようだが、これは発射台の脇で聞くロケットの打ち上げと同じだという。したがって音というよりも衝撃波と言ったほうがいい。その大声を獲物にぶつけて気絶させてから食べるという説もあるらしい。アメリカ海軍の潜水艦の乗組員の死の謎もここにあるのではないか、、、。クジラというと広い海をゆったり悠々と泳いでいるというイメージだが、そのクジラがそんな大きな音を出すとは驚き。こういうディテールがてんこもりなのである。だからとてもリアルに物語が展開する。

★近未来の日本沈没を描いた『ハイドゥナン』がそうであったように、今度もイメージの喚起力にすぐれていることも特筆ものと言えるだろう。さまざまな人間たちの思惑が錯綜して、緊密なアクションが展開するのは「ストーンエイジ」シリーズでもお馴染みだが、今回も複雑に交錯して海のドラマを盛り上げている。うまいなホントに。

★藤崎慎吾は1962年生まれ。米メリーランド大学海洋・河口部環境科を卒業し、科学雑誌の編集者・記者、映像ソフトプロデューサーなどを経て、デビュー作『クリスタルサイレンス』で1999年のベストSF国内篇の第1位を獲得。本格SFの書き手として注目されている一方、『ストーンエイジ』シリーズはアクション小説としても読めるし、その後の『ハイドゥナン』、そして今回の『鯨の王』はSF的な設定を生かしつつ、SFの枠を超えたエンターテインメント作品と楽しめる。かくて海の冒険が、深海の神秘が、我々の前に現出する。ダイナミックな海洋小説の傑作!。


●藤崎慎吾 『鯨の王』 (スタンバイ・ブックナビ)
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