20世紀ウラ・クラシック!<最新版>

このページは、19世紀末から20世紀の末流ロマン派クラシック音楽に焦点を当て、同時代の録音評を中心に紹介しています。

☆マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

2017年05月16日 | マーラー
※2006年の記事です

◎M.ヤンソンス指揮ロンドン交響楽団(LSO)2002/11LIVE・CD

難点を言えば三つある。

1.録音が余りに優秀すぎて本来の姿がよくわからない(ヴァイオリンの細かい装飾音符まで明確に聞き取れるのはいかがなものか)

2.ブラスが相対的に弱い。録音バランスのせいかもしれないが弦主体の組み立てになっているように聞こえる。

3.奇妙な解釈や大仰な表現を好む人には向かないまっとうな解釈である

つまり難点は無いに等しいのだ。冒頭中低弦の僅かなアッチェルで瞬間的に引き込まれ、体感的に速いスピードのうえで実にリズミカルな処理の巧さ、水際立ったテンポ感は素晴らしく、水のように淀み無い流れの中にもしかし確かな起伏もあり(この演奏ではやや穏やかではあるが)飽きさせない。音響の厚さ、深く重厚な表現にも欠けていずあきらかにこれは最新録音によく聞かれるたぐいの軽量級の悲劇的ではない。このようなドイツオーストリア系の音楽にも確かな適性を示すところが父君アルヴィッド氏とは違うところかもしれないが、いかんせん父君の演奏復刻は遅々として進まず抜群のオケコントロール(もちろん晩年は教育者として国外で活躍した父君のメンタリティの影響もあるだろう)や幅広いレパートリー(父君はロシアにおいて南欧の曲を南欧ふうに演奏できる数少ない指揮者であった)という共通点を除けばなかなか単純比較はできないものである。父君の国内実演を目にすることのできた幸運な人は限られている(私も聞いていないが、ムラヴィンスキーの代替指揮者というイメージで捉えられすぎていた面もあるようだ)のだからそもそも父君との単純比較論は無理がある。活躍した場の違いが大きく、振ることのできたオケの演奏適性や能力の違いがまるで出てしまっている状況を鑑みるに、マリス氏が「父君を越えた」かのように喧伝されるのは不思議な現象であるが、これも日本のマニアの狭量さを示す一例である。

もっとも私も僅か10年ほど前と今のマリス氏の変貌に驚嘆することしきりで、この進歩が確実に父君を越える日も来るのかもしれないとは思う(スタイルが違うので「越える」という表現自体おかしいかな)。10年以上前、氏と親しい方に推薦されて盤を聞いたりしてみたのだが、振っていたオケのせいだったと今になっては思うのだが、硝子のような透明感と客観的な奇をてらわない解釈が、横広がりで莫大な「当時ありがちだった現代的な演奏」に聞こえてしまい、奇演不思議解釈にどっぷり漬かっていたロシアマニアの私には「肌が合わなかった」。リハを聞く機会もあったのだがパスしてしまった。音響の美しさを追求するのは曲によっては正しいやり方かもしれないが国民楽派からロマン派末期の音楽をやるには物足りない。

しかし今のマリス氏はもうそんなレベルではないようだ。ここには熱いマリス氏が聞ける。弦楽器のパキパキゴリゴリいう音が終端部まで聞こえ続けるこの緊張感。それに細かい音まで全て計算ずくでパズルのように組み立てるマーラーに対して、その計算を余すところ無く音にし一本の音楽に纏めきった物凄い演奏精度(どういう「磨ぎ方」をすればロンドンのオケがここまでノって気合を入れ音にできるようになるのだろう、ヴァイオリンの装飾音が全てビッチリ揃って聞こえる演奏に初めて出会った)が伴っているのが氏の「通好み」(嫌な言葉だ)なところであり、後者に拘る古いタイプの聴衆にも受けるゆえんだろう。これがしかも実演記録なのである(もちろんいじってると思うし残響も拍手もカットしている)。

このCDはロンドン響の自主制作扱いだが、かなり安価に簡単に手に入れることができるので現代の名演奏として是非聞いてみていただきたい。あくまで正攻法ではあるが随所にちりばめられた細かい操作が自然に演奏を盛り立てている。1,3(スケルツォ)楽章の腹の底に響き胸を切り裂くような低音のキレのよさがわくわくさせる。2楽章のいかにもマーラーらしい、寧ろ氏のほうからマーラーに歩み寄ったような演奏ぶりや、4楽章のあっというまのドラマも、ベルティーニに欠けていた何か(それはテンシュテットには確かにあったものだ)が補われた、進化した、でも伝統的なマーラーそのものの見事な記録である。ほんらい個性を重視する私はこのてのものに高評価はしないのだが、録音の見事な明晰さとのタッグマッチで◎とせざるをえない。名演。ノリより精度を重視したようなウィーンのニューイヤーを聞くにつけ正直期待していなかったのだが、何にでも同じスタイルで挑む昔かたぎの人ではないのだと納得。
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