Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

経済学における「物語」の可能性

2009-11-24 23:46:56 | Weblog
アカロフ-シラー『アニマルスピリット』は,三省堂書店本店で長らく平積みされるなど,一般向け経済書として売れている。この本を一言でいうなら「行動マクロ経済学の構築に向けたマニフェスト」であって,決して「行動マクロ経済学入門」ではない。訳者の山形浩生氏は「本書が想定している読者は・・・既存のマクロ経済理論にどっぷり浸かり、それを空気のように当然のようなものと思っている人々となる」とあとがきで述べている。

したがって,マクロ経済(学)に関する一定の知識がないと,読むのに苦労する部分があるだろう。しかし,単に行動経済学に関心のある読者にとっても,「物語」(story)という概念を経済学に持ち込もうとすることは興味深いはずだ。企業や消費者,あるいは政策決定者の意思決定が「物語」に支配されるという見方は,シャンクのスクリプト論のような,認知科学の流れに連なる。いうまでもなく経済学者も「物語」にとらわれている。

ただ,この本はマニフェストなので,本書で経済における「物語」概念が十分整理されているわけではない。この部分については,既存研究はほとんど引用されていない。つまり,行動経済学の研究のなかでも,物語論はまだまだ未開拓であると推察できる。難しいのは,経済への見方をすべて物語に吸収させてしまうと,究極の相対主義になり,経済学の「客観性」を担保できなくなることだ。そもそもそんなものはないと割り切れればよいが。

アニマルスピリット

ジョージ・A・アカロフ,ロバート・シラー

東洋経済新報社


このアイテムの詳細を見る

なお,著者の一人アカロフは情報の経済学の発展に貢献した第一人者であり,ノーベル経済学賞を受賞している。随分前に,認知的不協和の理論を経済モデルに導入した彼の論文を読んで感銘を受けた記憶がある(以下の本に所収)。それは,心理学でよく知られた現象を,経済学の枠組みで表現した研究であった。しかし,『アニマルスピリット』を読むと,最近のアカロフは経済現象を心理学の枠組みで捉えることを目指しているように思える。

こうした大物が行動経済学について語り,やはりノーベル賞受賞者で,経済学者のなかの経済学者という印象のあるソローが賛辞を送っているのを見ると,つくづく時代は変わったと思わざるを得ない。

ある理論経済学者のお話の本

ジョージ・A. アカロフ

ハーベスト社


このアイテムの詳細を見る

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。