私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「私は貝になりたい」

2008-11-29 10:32:10 | 映画(ら・わ行)

2008年度作品。日本映画。
清水豊松は高知の漁港町で、理髪店を開業していた。決して豊かではないが、家族三人理髪店でなんとか暮らしてゆく目鼻がついた矢先、戦争が激しさを増し豊松にも召集令状が届く。配属された部隊で思いもよらない苛酷な命令を受ける。終戦。豊松は家族のもとに戻り、平和な生活が戻ってきたかに思えた。それもつかの間、MPに戦犯として逮捕されてしまう。
監督は映画初監督となる福澤克雄。
出演は「模倣犯」の中居正広。「大奥」の仲間由紀恵 ら。


フランキー堺主演のオリジナルの後も、映画化やテレビドラマ化された作品だが、ちゃんと見るのは今回初めてである。
なぜこの作品がそう何度もリメイクされてきたかは映画を見れば納得できる。
日本人受けしそうな泣きを煽る展開、不幸としかいいようのない悲劇、家族の絆や反戦という普遍的なテーマを扱っているということもあって、多くの人の心に訴える素材を持ち合わせている。

特に戦争が生む悲劇というテーマが良い。声高に戦争反対を訴えるのではなく、戦争の悲劇性をクローズアップする辺りのセンスは良い。
軍隊における非人間的で苛酷な扱いにはただ眉をひそめるしかない。あの程度のことは当時は普通に行なわれていたのだろう。僕ならあの環境には耐えられない。
しかも捕虜の処刑のシーンなどを見ていると憂鬱になってしまう。
あの状況下にいたと仮定して、何人の人が上官の命令に逆らうことができるのだろう。人を殺すなんて、大抵の人はやりたくないのに、戦時下という状況はそれを許さない。その様が心苦しい限りだ。

しかし戦争という暴力的で巨大な流れの前にあっては、一人の人間というものはあまりに無力な存在だと気づかされる。
ただの散髪屋で、家族を愛しているだけの普通の人間が、あらゆる誤解や勘違いにより、なぜここまで苦しめられなければならないのだろうか。
戦争というものは悲劇以外の何物でもない、とこういう映画を見ているとつくづく思う。
オリジナルを見ていないが、その単純な訴えを発信し続けるためにも、こういうリメイクがつくられる必然性や意義はあるのだろう。

もちろん本作には欠点も多い。
主演両者の演技はお世辞にも上手いとはいえないし、泣きを煽る演出は鼻につくくらいあざといし、音楽自体は良いものの、音量が大きく無理にでも情感に訴えようとしている部分が気に入らない。
だがそういった瑕疵はあるものの、良質の反戦映画ではないか、と個人的には思う。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

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