2007年度作品。アメリカ映画。
大学教授のウォルターは、62歳。愛する妻がこの世を去って以来、孤独に生きていた。ウォルターは学会に出席するため、ニューヨークへ出張する。久しぶりに別宅を訪れると、そこには見ず知らずのカップルがいた。そこにいた移民青年タレクは警察だけは呼ばないでくれと頼み、素直に荷物をまとめて出ていく。ふたりを見送ったウォルターだが、今夜の宿もなく途方に暮れるふたりをしばらく部屋に泊めることにする。
監督はトム・マッカーシー。
出演はリチャード・ジェンキンス、ヒアム・アッバス ら。
この映画を予告編で見て、おもしろそうだな、と思ったのは、そのジャンベのリズムに依るところが大きい。
もちろん物語も良さそうだな、とは思ったのだけど、ノリノリな音楽に何となく関心を惹きつけられたのがひとつの決め手になっている。
そういう理由で見たこともあったため、ジャンベが流れるシーンが思ったよりも少なかったことに、少し肩透かしを食った思いでいる。自己責任と言われればそれまでだけど、期待していただけに少し残念だった。
だがその少ないジャンベのシーンは期待通りリズミカルで、昂揚感が得られる。
特に公園でのジャンベのセッションがすばらしい。
そのシーンを見ている間、僕はリズムを取りたくなった。ジャンベのリズムは、観客にそうさせるだけの心地よさがあるのだろう。ああいうシンプルな民族楽器は、本当にいいものだ。
映画の内容もなかなか悪くはない。
たとえば、ジャンベ奏者タレクとの交流によって、老いた大学教授の心がほぐれていく過程は何とも温かいし、居候の女性と二人きりに取り残されて、気まずくなる描写もおもしろい。
そういった前半の流れは個人的には好きである。
タレクの母親が出てくる中盤以降は、あまりおもしろく思えなかったが、これは個人的な興味の問題かもしれない。
映画からは、テロを不安視する余り、鷹揚さが欠け、硬直していくアメリカ社会の実体が浮き彫りになっていて、なかなか印象的だ。
その硬直して、人情味の失われた世界が描かれているからこそ、ラストでウォルターがジャンベを叩きつけるように打つシーンが利いてくるのである。
そこにあるのはウォルターの紛れもない怒りだ。そのシーンからはやりきれなさが伝わるだけに、映画は最後、深い余韻を残している。
本作は基本的には地味な作品である。だが滋味深く、ところどころでは光るものもある。
なかなかの佳品と言ったところだ。
評価:★★★(満点は★★★★★)
製作者・出演者の関連作品感想
・トーマス・マッカーシー出演作
「グッドナイト&グッドラック」
「父親たちの星条旗」
・リチャード・ジェンキンス出演作
「キングダム 見えざる敵」
「スタンドアップ」
・ヒアム・アッバス出演作
「パラダイス・ナウ」
「マリア」
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