私的感想:本/映画

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池内恵『イスラーム国の衝撃』

2015-02-18 20:14:30 | 本(人文系)

既存の国境を越えて活動し、住民から徴税し、「国家樹立」をも宣言した「イスラーム国」―なぜ不気味なのか?どこが新しいのか?組織原理、根本思想、資金源、メディア戦略、誕生の背景から、その実態を明らかにする。
出版社:文藝春秋(文春文庫)




先日起きたイスラム国(ISIS or ISIL)による日本人人質事件は、実に衝撃的だった。
何でこんなことをするのだろう、、、とネットやテレビを見ながら不思議に思うことも多く、茫然ともさせられた。

そして同時に、自分がISISについて何も知らないことを思い知らされ、愕然としたものである。
イラク北部が、原理主義の過激派の侵攻を受けているというニュースは知っていたけれど、それがこのような形で日本に現れるとは思いもしなかった。

まさに自分の無関心っぷりを突き付けられた思いがした。
そして多くの日本人はそうであっただろう。


本書では、ISIS誕生の経緯から現在までを、実に丁寧に解説してくれている。

アフガン戦争によるアルカイダの離散、
イラク戦争で中央政府が弱体化したことによるアルカイダ勢力の流入、
アラブの春をきっかけにした中央政府の各所での弱体化によって、原理主義組織が勢力を盛り返していく様など、

ニュースである程度は知っているつもりだったけれど、こうやって改めて解説してもらえると非常にわかりやすい。


そんな中で、メディア戦略を駆使して、世のムスリムや、欧米勢力に訴えかけていく様など、実に巧妙だということに気づかされる。
それだけに怖ろしい組織というほかない。

そして「グローバル・ジハード」という新しいスローガンを元に、ゆるやかな組織関係を築いていく姿は、まさに現代的な戦争と見えて興味深かった。
そしてそれがいかに性質が悪いか、ということも同時に気づかされて、暗澹たる思いに駆られるのである。

そういった事情の解説は非常に読み応えがあって、勉強になる。


できれば、イスラム教では、なぜこのような原理主義が台頭しやすいのか。
ISISの詳しい統治機構など、さらなるイスラムの文化的背景や、つっこんだ内実なども知れたらよかったが、そこまで望むのは酷だろうか。

ともあれ、今現実に世界に存在する危機をよく知ることができて、満足である。
日本はもっと世界の悲惨に目を向けた方がいいのかもしれない。
幾ばくかの反省と共にそう感じる次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


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