私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『ワイルド・ソウル』 垣根涼介

2006-05-30 19:41:12 | 小説(国内ミステリ等)


吉川英治文学新人賞をはじめ、三賞を受賞した垣根涼介の代表作。
アマゾンに渡った戦後移民とその子孫たちが、何の手助けもしてくれなかった日本政府に対して四十数年を経て、復讐を目指す。


とにかくべらぼうにおもしろい作品である。

本書は、日本政府が戦後に行なってきた日本人移住問題に端を発している。そこにあるのは腐敗と事なかれ主義であり、そのために多くの人間が犠牲になっていく。
これは昔も今も変わらないわけで、読んでいて痛ましさを感じた。リアリティを強烈に感じさせる筆致だけにその凄惨さが強く伝わってくる。

そしてそこから劇場型のテロリズムに突き進むのだけど、その様がなんとも圧巻だ。元々描写にリアリズムが貫かれているため、何の矛盾も感じさせず、ラストまで一気に突っ走ってくれる。
それはまさに迫真もので、圧倒の一語だ。読み終えた後には心地良い満足感に包まれた。

キャラが立っていたのも、本書を楽しく読み進めることができた要因だろう。
軽薄で、悪事を行なうのにためらいのないケイや、くびきの中に囚われてしまっている松尾など、そのキャラの造形の上手さと魅力には感心仕切りである。

無理のないストーリーに、圧倒的なスケール感と迫力、そして魅力的なキャラクター。これらが揃った本書こそ、一級のエンターテイメントと呼んで差し支えがないだろう。一読の価値ありだ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


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