私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『アメリカの鱒釣り』 リチャード・ブローティガン

2008-04-19 08:32:19 | 小説(海外作家)

二つの墓地のあいだを墓場クリークが流れていた。いい鱒がたくさんいて、夏の日の葬送行列のようにゆるやかに流れていた。――涼やかで苦みのある笑いと、神話めいた深い静けさ。街に、自然に、そして歴史のただなかに、失われた〈アメリカの鱒釣り〉の姿を探す47の物語。
大仰さを一切遠ざけた軽やかなことばで、まったく新しいアメリカ文学を打ちたてたブローティガンの最高傑作。
藤本和子 訳
出版社:新潮文庫


工学部という典型的な理系環境で過ごしてきたせいか、僕は物事の中にすぐ意味を見出そうとしてしまう。
それは何も学問の話だけに限らず、人間関係の場面にも人の態度に隠された心理を読み取り、それを自分の中で(幾分危険だと気付きながらも)カテゴライズしてしまうくせがある。当然小説においても同じで、物語に意味を見出し、メタファーを汲み取るという行為が習慣化してしまっている。

そういう人間には本作はまったく合わない、読み終えた後にはつくづく思い知らされた。
正直、僕は「アメリカの鱒釣り」という言葉の中にどのようなメタファーがあるかをいろいろ考えてしまい、そこから先に進むことができず、素直に物語を楽しむことができなかった。
わかったように語るならば、「アメリカの鱒釣り」はすでに失われたアメリカ的なる美的側面を表しているとも思うのだが、そう単純に割り切れないところも多く、各断章に流れる作品そのものの良さにまで目が届かなかったきらいがある。
またそれは僕が60年代のアメリカに対する知識に乏しいということも関係しているのかもしれない。

もちろんいくつかの面では目を引く部分もある。「クールエイド中毒者」やアル中、「<アメリカの鱒釣りホテル>二〇八号室」の男女に対する視点には温かいものが感じられるし、「アメリカの鱒釣りテロリスト」には多少の皮肉と物悲しさが漂っていて心に残る。「永劫通りの鱒釣り」のガソリンスタンドでの会話やラストの「マヨネーズの章」には何とも苦い笑いがあって笑ってしまう。
でもそういった良さを僕は表面的にしか受け入れることができず、それ以上のものが僕の心に訴えることはなかった。

断章形式で、物語そのものに深い意味がないという点では『家守綺譚』に似ているが、あの作品のように、理屈とか越えて、すっと心に沁み込んでこなかったのは残念としか言いようがない。だがこればかりは感性の違いなのだろう。

評価:★(満点は★★★★★)

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4 コメント

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Unknown (ぐみご)
2009-02-06 10:07:11
『アメリカの鱒釣り』読みました~。

これ、何と表現すればいいのか、よくわかんない本ですねー。ほら話とマジメな話とわけわかんない話とくだらない話が、数珠繋ぎになってる感じ。

意味わかんないんだけど、読むと笑ってしまうので、電車の中に持ち込まないようにしてました(笑)。「わたしは、ずっと、マヨネーズという言葉で終わる本を書きたいと思っていた」とか、もぅ~勘弁してくれぇ~。ぎゃははっ(床を転げまわって笑う)。

他人様のプログにパラサイトしてる私が言うのもなんですが(汗)、「ブローティガンめ、好き勝手書いてるなー。ったく、自由なヤツ…」というのが私の感想。でも、これは確かに、理性で考えるとイラつくかもしんないですね。
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Unknown (qwer0987)
2009-02-06 22:54:05
『アメリカの鱒釣り』はファンも多い作品ってのは知っているんですけどね。ダメなんですよね。合わない。本当はこういう作品も楽しんで読みたいってむちゃくちゃ思っているのに、性格のせいかできない。
もうちょっと肩の力抜いて読めばいいんでしょうね。好き勝手書いてるな、くらいで。
もう少し、年取ってから再チャレンジしてみたい、とは前々から思っていたんで、今度はもっと気楽な気持ちで読んでみます。

でも、「わたしは、ずっと、マヨネーズという言葉で終わる本を書きたいと思っていた」、ってよくよく読んでみると、むちゃくちゃ変ですよね。いい意味で、恐ろしくくだらない。
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Unknown (ぐみご)
2009-02-07 15:17:36
>いい意味で、恐ろしくくだらない。

そーそー。この本って、くだらない話の寄せ集めだと思う。ガラクタを積み上げたら、ほら、こんなにシュールな世界ができた!っていう本なんじゃないかなぁ(残念ながら、私にはそうとしか思えない…汗)。

合わない本ってあるから、そんなに気にしなくてもいいと思いますよー。私なんて、最初の数ページを読んで、「合わない」って思ったら、どんな名作でも読まないですもん(笑)。

私の友人に、文学史に残る大作しか読まない人がいて、ある日「軽い本とか読まんの~?」って聞いたら、「読まん(きっぱり)。一生の間に読める本の数って、限られてるじゃん。図書館の本を全部読めるわけじゃないし。だから私は、文学史に残る名作しか読まんのよ。歴史の洗礼を受けて残った本ってのは、クオリティが保証されてるからね」っていう答えが返ってきて、なるほどな~って感心したことがあってさ。彼女を見習って、「すべての本を読めるわけじゃないんだから、私は好きな本しか読まないことにしよう」って決めたら気が軽くなったよ。
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Unknown (qwer0987)
2009-02-07 21:08:32
>合わない本ってあるから、そんなに気にしなくてもいいと思いますよー。

ああ、そう言ってもらえるとだいぶ気が楽になります。ありがとうございます。
でも『アメリカの鱒釣り』は何年後か何十年後かはわかんないけど、もう一度読み直しますよ。このブログ始めて、小説で1点をつけたのは、あれだけなんで、逆にずっと気になってるんですよね。そのときには、いろいろ価値観変わって、くだらなさが笑えたらいいんだけどなあ。

しかし、友人の人、おもしろいですね。『ノルウェイの森』にもそれと似たような人が出てきてたけど、実際にいろんな人がいるんだ。
逆に、僕は無理とわかっちゃいるけど、図書館の本を全部読めたら最高なんだろうな、って思ってる人なんで、なるべくいろんなジャンルを読みたいなんて思ってます。まあ、ある程度趣味は偏るんですけどね。

でも
>「すべての本を読めるわけじゃないんだから、私は好きな本しか読まないことにしよう」
ってのは基本ですよね。
何となく、貧乏性なんで、本は最後まで読んじゃうけど、いま以上に気楽に読んでみます。

ああ、それと「チェ 39歳別れの手紙」を見ました。
個人的には前作の方が良かったけど、まあまあおもしろい、ってところです。でも微妙に史実と違ってるような気がするんで、やっぱりぐみごさんは、腹が立つんだろうな、って思いました。
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