月の光に浮び上る少女エリーザベトの画像。老学究ラインハルトはいま少年の昔の中にいる。あのころは、二人だけでいるとよく話がとぎれ、それが自分には苦しいので、何とかしてそれを未然に防ごうと努めた。こうした若い日のはかない恋とその後日の物語「みずうみ」他北方ドイツの詩人の若々しく澄んだ心象を盛った短篇を集めた。
関泰祐 訳
出版社:岩波書店(岩波文庫)
小川洋子の「メロディアスライブラリー」で、『みずうみ』が取り上げられると聞いたので、とりあえず読んでみた。
率直な感想としては、古風でセンチメンタルなお話だな、といったところである。
しかし文章や叙述が抑制されているせいか、情感に訴えかけてくる点が印象的だった。
物語は、老人が過去を追想する形式で描かれている。
主人公のラインハルトは幼なじみのエリーザベトと仲が良く、君は僕の奥さんになるんだ、と幼い約束を交わし合っている。しかし時が経ち、ラインハルトは学校のため故郷を離れてしまう。そして彼が故郷にいない間に、エリーザベトは別の男と結婚することに、、、、というのが話の筋だ。
見事なくらいに古風な筋立てである。
そういった情景は、あくまで抑制された筆致で描かれている。
エリーザベトとエーリッヒのことも多くは語らず、エリーザベトの心情も、ラインハルトが収集した民謡を通して、仄めかされるだけだ。
センチメンタルな物語は、主人公たちの自己愛の強さが目立ち、感情表現も幾分どぎつくなる傾向が強いような気がする(偏見だ)。
しかし、『みずうみ』に関しては、多くを語らないために読み手であるこちらの心を静かにゆさぶる力に満ちている。
加えて多くを語らないため、静謐さも立ち上がっているのだ。
そこが何よりもすばらしく、魅力的な作品であった。
併録の四篇は、どれも牧歌的な小品である。
『マルテと彼女の時計』『広間にて』は、追憶の風景が微笑ましくある。
『林檎の熟するとき』は、滑稽譚という感じで、青年がともかくかわいそうだった。
『遅咲きの薔薇』は、夫婦のこれからの幸福が仄見えるようで、読後感は良かった。
評価:★★★(満点は★★★★★)
その頃の話が描かれる。
そして現在の老人に戻る。
美しい小説でした。
>加えて多くを語らないため、静謐さも立ち上がっているのだ。
同感です!
たくさん説明しないからこそ素晴らしいんです。
幼い頃、若い頃の恋心。
いつまでも大事にしたい。
そしてその相手に今会いに行こうなんて野暮な心は駄目ですよね。
愛すべき小品です。
> 幼い頃、若い頃の恋心。
> いつまでも大事にしたい。
> そしてその相手に今会いに行こうなんて野暮な心は駄目ですよね。
少しにんまりしました。
思い出は美しいままがいいんだろうな、っては思うけど、今あの娘はどうしているんだろ、って下世話な興味もあったりします。
僕は小説の主人公にはなれないタイプのようです。