私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「つぐない」

2008-05-18 15:33:20 | 映画(た行)

2007年度作品。イギリス映画。
1930年代、イギリス。政府官僚の長女に生まれたセシーリア。兄妹のように育てられた使用人の息子ロビーを、身分の違いを超えて愛しているのだ、と初めて気づいたある夏の日、生まれたばかりの二人の愛は、小説家を目指す多感な妹ブライオニーのついた悲しい嘘によって引き裂かれることになる。
イギリスの作家イアン・マキューアンの『贖罪』を映画化
監督は「プライドと偏見」のジョー・ライト。
出演は「パイレーツ・オブ・カリビアン」のキーラ・ナイトレー。「ラストキング・オブ・スコットランド」のジェイムズ・マカヴォイ ら。


この映画に登場するブライオニーは想像力豊かな文学少女で、思春期特有の潔癖さを抱え持っている。性的な言動をする男性に嫌悪感を持っている姿は、この時期の少女にはありがちな光景であろう。
だがその潔癖さが、いとこの強姦事件で、犯人をロビーだと断言し、ロビーと恋仲になりかけていた姉のセシーリアの運命を狂わせていく様は何とも恐ろしい限りである。

ブライオニーがロビーという人物を誤解するに至るのは、恐らく彼がブライオニーの初恋の相手ということも関係しているだろう。その初恋の相手が汚い言葉を使い、姉と性的な関係を持っているということに、彼女なりにショックを受けているのは想像に難くない。
そこには彼女なりの嫉妬や復讐心も生まれるのだろう、と推察できる。しかしだからと言って、それですべてが許されるわけではない。

実際、引き裂かれたロビーとセシーリアに待っているのは悲惨な時間だ。
男は戦争に投げ出され、せっかく再会した恋人とも満足に時間を共有することだってできない。そして最終的な運命だって、救いがあるとは言えない。
だからこそ、つぐなう手段を失われたブライオニーがラストで救いを明示しようとした姿勢には、選択肢が残されていないだけに胸に迫るものがあった。

ただ原作既読者として不満を上げるならば、ラストが若干言葉足らずかな、という気がしなくはない。
原作と映画とは分けて論じるべきとは思うのだが、せめて原作にあった「神が贖罪することがありえないのと同様、小説家にも贖罪はありえない」に類する言葉が必要だったのではないだろうか。
映画のラストを見ると、小説を通してしか私はつぐないを果たせず、小説を通してしか彼らに怒られるしかなかった、と言っているように見えて、ただの小説家の自己弁護にしか映らず、やや不満である。

しかし全体で見れば、非常に格調高く描かれていて、作曲賞を取っただけあり、タイプライターの音も心地よく概ね満足の一品である。一見の価値があることは確かだろう。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


原作の感想
 イアン・マキューアン『贖罪』

制作者・出演者の関連作品感想:
・ジョー・ライト監督作
  「プライドと偏見」
・キーラ・ナイトレイ出演作
 「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」
 「プライドと偏見」
・ジェームズ・マカヴォイ出演作
 「ナルニア国物語 第1章 ライオンと魔女」
 「ラストキング・オブ・スコットランド」

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