宗教文学に一境地を拓いた倉田百三の代表作。
浄土真宗の開祖親鸞とその弟子唯円を主人公に、浄土真宗とキリスト教の教義を表現。人間の矛盾や弱さを描ききる。
出版社:岩波書店(岩波文庫)
主題や登場人物の関係もあり、宗教的な側面が強く出ている。
僕は基本的に宗教的なるものに懐疑的な人で、ここで語られる「他力」という結論には納得いかない面はあるのだが、それによってこの戯曲を説教くさいと感じることはなかった。
きっとそれはここに出てくる人物が、自分たちの懊悩や迷いに対して真剣に、「一すじに」対峙しているからだと思う。そしてそれゆえにこの内容に、無宗教の人間でも感動することができるのだ。
この戯曲で展開される思想には心を打たれるものが多い。
たとえば悪に対する思想。誰が真に悪か、善か、突き詰めれば答えがないわけで、言ってしまえば誰もが悪人だとも言えるだろう。少なくとも善になりきることはできない。しかしそれでも叶わなかろうと、人は善を目指す。そのことを願う姿はただすばらしい。
ほかにも、裁かずにゆるすという思想、運命と祈り、人を傷つける愛といい、心に響くものが多い。
ここには人間が経験しうる多くの問題が提示されている。そしてその深さとそれに立ち向かう登場人物たちの真摯な姿は真に心を打つ。
すばらしい作品であると素直に思える。一読の価値ある一品だ。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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