2007年度作品。イラン=フランス映画。
破壊された仏像がいまも瓦礫となって残るバーミヤン。学校に行きたい6歳の少女バクタイはノートを買うお金を得るため、街に出て卵を売ろうとする。四苦八苦の末、何とかノートを手に入れるが、バクタイは学校に向かう途中で、少年達に取り囲まれてしまう。少年たちはタリバンを真似た”戦争ごっこ”でバクタイを怖がらせるのだった。
監督はハナ・マフマルバフ。
出演はニクバクト・ノルーズ。アッバス・アリジョメ ら。
「子供の情景」というタイトルが示すように、ここには子供のかわいらしい姿が映し出されている。
たとえば少女がノートを買うまでの冒険が描かれる、映画の前半などは子どもの愛らしさがよく出ているのではないか。子どもらしくときどき無茶な行動をとる少女の姿はいじましく撮られている。
ちょっとあざといんじゃないの、とひねたことを感じる部分もあるけれど、そんな少女の姿の描写は丁寧だ。
だがアフガニスタンにおける子供の情景は、いじましいね、かわいらしいね、で片付けられるようなものではない。
この映画からは、アフガニスタンでのいくつかの問題点が浮かび上がってきている。
その一つが貧困だろう。実際、この映画は冒頭から、貧困の問題が透けて見える。
少女はノートも満足に買ってもらえず、学校にもなかなか行かせてもらえない。少女の家ほど貧しくもなく、子どもに教育を受けさせる余裕がある家でも、日本人から見れば、まだまだ貧しいレベルだ。
それもこれも、戦争からの復興がいまだ満足に終わっていないことが原因なのだろう。
そしてそんな戦争は、人の心を荒んだものにしてしまっているように見える。
その象徴こそ、少年たちが行なう、タリバンごっこだ。
僕はアフガンのことはよく知らないので、アフガン住民のタリバンに対する思いを知らない。この映画が、どの程度の真実を描いているか、アフガンの空気くらいはつかんでいるのかもわからない。
だが映画内で描かれたこのタリバンごっこは醜悪だ。
映画の中で少年たちは、少女が大事にしているノートを平気で破るし、深く考えず恣意的な正義を振りかざす。
それはただの遊びでしかないけれど、人の心を負の方向に追いつめる、性質の悪い遊びだと思う。
このごっこ遊びが実在するかはともかく、彼らの遊びは、タリバンがそのようなことを実際に行なっていたことを指し示しているのだろう。そしてその事実は少なからず、後世を担う子供たちにも影響を及ぼしているように見える。
そしてラストが暗示するように、タリバン支配下のような暴力的な世界から自由になる方法が、死しかないのだとしたら、それはあまりに悲惨なことだ。
アフガニスタンにおける子供の情景は、かわいらしいね、で済むものではない。
そして子供の情景の先にある、子供の未来は、あまりに不明確で、どこかペシミスティックだ。
そんな世界を見せられて、僕はいろいろなことを考えずにはいられなかった。
映画として見たら、ちょっとどうよ、と言いたくなる面も多いのだが、上に述べたような子どもの描写や、主題などに見るべき点があると思った次第だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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