私的感想:本/映画

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ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』

2015-08-28 21:50:24 | 小説(海外作家)
 
一九三〇年代、アメリカ中西部の広大な農地は厳しい日照りと砂嵐に見舞われた。作物は甚大な被害を受け、折からの大恐慌に疲弊していた多くの農民たちが、土地を失い貧しい流浪の民となった。オクラホマの小作農ジョード一家もまた、新天地カリフォルニアをめざし改造トラックに家財をつめこんで旅の途につく―苛烈な運命を逞しく生きぬく人びとの姿を描き米文学史上に力強く輝く、ノーベル賞作家の代表作、完全新訳版。
黒原敏行 訳
出版社:早川書房(ハヤカワepi文庫)




『怒りの葡萄』は社会的な問題意識に貫かれた作品である。

描かれる状況はただただ惨いものである。
そんな惨い、自然災害や、取り巻く社会的なシステムによって災難を被る庶民の生活をつぶさに描いていて、何かと考えさせられる一品だった。

そしてここで描かれている労働者の過酷な状況は、現在でも通じる面がある。
その点を鑑みても、普遍的な価値を持つ作品であると感じる次第である。



小説は主としてジョード一家を中心に描かれている。

ジョード一家の状況は悲惨だ。
砂嵐などの自然災害で、まともな収穫も期待できず、小作農家として土地を追われる。そして仕事があるとの噂を聴きつけ、カリフォルニアへと向かう。

彼らは新しい土地での希望を語るけれど、当然ながら、そんな状況など夢幻にすぎない。
祖父は土地を棄てなければいけないことに悲しみ、そのせいもあってか死んでしまうし、着いた土地ではオーキーと差別的に言われ、区別されている。
賃金は安く設定され、金がほしいのなら、それで我慢しろと足下を見られる始末。

差別も甚だしく、反抗しようものなら警察からはアカのレッテルを貼られ暴力的に排除されてしまう。
仕事についたとしても、仕事は期間工ですぐに仕事にあぶれてしまうし、少ない仕事を皆で奪い合う状況にもなってしまう。
そしてシーズンが終われば仕事はなくなり、自然災害が降り注ぐ。

これほど悲しい状況はなかろう。
そこにあるのは紛れもない、過酷過ぎる現実だ。
どこか現在のワーキングプアと通じる面があり、気が滅入る思いがする。


そんな中で庶民にできることは連帯することくらいだろうか。
苛酷な労働条件に対して、ノーを突きつけたり、差別による暴力的な排除に対しては、自分たちで自治組織を組み立て、立ち向かおうとする。

その姿は共産主義的だが、非常に重要な示唆に富んでいよう。

実際そんな苛酷な条件を提示する側だって負い目はあるのだ。

母ちゃんを揶揄した会社が経営する店の男が恥じ入ったように、高い賃金で雇ってもいいと思う経営者がいるように、どんなときでも、助けてやりたいという優しさを持つ人間はいる。


しかし状況を見る限り、それですべてが解決するわけでもない。
連帯だけでは、食事を得る、という現実的な課題を克服することは難しいのかもしれない。
作品からは、そんな理不尽に対する怒りが強く感じられる。

最後はある意味、悲惨な状況で、母ちゃんたちも将来に対する不安はあるだろう。
しかし世界に対する怒りがある以上、彼らはそこからやり直すしかないのかもしれない。

ともあれ告発の力が如実に感じる一品である。何とも力強い小説であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


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