私的感想:本/映画

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谷川俊太郎『自選 谷川俊太郎詩集』

2014-04-26 20:23:42 | NF・エッセイ・詩歌等

デビュー以来、半世紀を超えて人々に愛されつづけてきた谷川俊太郎(一九三一‐)の二千数百におよぶ全詩から、作者自身が一七三篇を精選。わらべうたから実験的な長編詩まで、のびやかで、リズム感あふれる言葉がここちよい谷川俊太郎のエッセンス。
出版社:岩波書店(岩波文庫)




谷川俊太郎の詩をまとめて読むのは初めてだ。
本作は初期から近作までが収録されており、詩人のたどった軌跡を追うことができる。それが何よりも良い。

教科書にも採用されがちな初期の作風から、物語性さえ感じさせる詩、実験的な詩、子供向けの詩など、それぞれに違った味わいがあってユニークだ。
個人的にはひらがな詩が好きだが、それ以外の作品ももちろんすてきである。



まずはデビュー作の『ネロ』。

失われてしまった愛犬への哀惜がにじみ出ていて胸に沁みる詩だ。
長く生きている者は、早く亡くなった者より多くのものを経験し、知っていく。
見ようによってはそれは理不尽なことだろう。

だがそれでも生きている者は新しい季節を迎え、生き、新しいことを知っていくし、そうせざるをえないし、しなければいけない。
生きていくことの意味を考えさせてくれる。
十代の若者が書いたと思えないほど老成してているが、同時に若さも見えるすばらしい作品だ。



『ののはな』『かっぱ』『ほっとけ』などの、『ことばあそびうた』『ことばあそびうた また』に所収の作品群もおもしろい。

中身はほとんどないのだが、ひらがなで書かれることで、文章の意味が捉えられなくなるところが楽しい。
それに読んでいても、漢字がないだけでここまで目が滑るものかと教えてくれる。
ことばあそびうた、と命名するだけあり、リズムがあるのも良かった。



子供向けという点では、『わらべうた』『わらべうた 続』所収の作品群もすてきだ。

たとえば『わかんない』。
「わかんなくても/みかんがあるさ」とか「わかんなくても/やかんがあるさ」なんかは、なぜそっちに? と一瞬でも思わせるところが特に良かった。

『ふつうのおとこ』もすばらしい。
のんびりしたどこか哀愁も感じさせる作品と思ったら、最後でぞくりとさせられる。



さて、本作の白眉はまちがいなく『あなた』である。
個人的には谷川俊太郎の最高傑作と思う。

同じ姿形をしても、人は他人の世界を覗き見ることはできない。
同じ空間を共有し、近くにいてさえ、決して心が一つになるわけでもない。
そこには限りないくらいに深い断絶がある。
たとえ愛していてさえ、その溝を越えることはできない。そしてぶつかることもある。
しかしその間にさえ、愛が生まれることがある。

そういった事実を静かに訴えているように見える。
そこには限りないまでの生の美しさが感じられて、深く深く胸に響いた。



そのほかもいちいち感想は書けないがすてきな詩ばかりだ。
羅列になるが、気に入った作品は以下の通りになる。

『24(何気なくうつってゆく)』、『ビリイ・ザ・キッド』、『生きる』、『ポエムアイ』、『生長』、『うそとほんと』、『乞食』、『美しい夏の朝に』、『鳥羽1』、『これが私の優しさです』、『午の食事』、『ここ』、『ほほえみ』、『ほほえみの意味』、『父親は』、『風』、『明日』、『ぼくは言う』、『陽炎』、『たんぽぽのはなの さくたびに』、『にじ』、『きみ』、『はな』、『わらう』、『夕焼け』、『ひこうき』、『おに』、『ケトルドラム奏者』、『死と炎』、『十二月』、『現世での最後の一歩』、『ああ』、『あのひとが来て』、『願い』、『いや』
などが良い。


谷川俊太郎という詩人のイメージのすばらしさを感じさせる詩集だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

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