私的感想:本/映画

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『百瀬、こっちを向いて』 中田永一

2011-02-06 18:07:14 | 小説(国内男性作家)

「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは―。しかしその裏には、僕にとって残酷すぎる仕掛けがあった。「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった…!」恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。
出版社:祥伝社(祥伝社文庫)




『百瀬、こっちをむいて』を読もうと思ったのは、乙一のTwitterがきっかけだ。
そこで中田永一が、乙一の別名義と知ったからである。
そうでなければ読むことなど一生なかったかもしれない。僕は好んで恋愛小説を読む人ではないからだ。

乙一はこれまでも恋愛を感じさせる作品をいくつか書いているが(『暗いところで待ち合わせ』とか、『Calling You』とか)、中田永一名義では雑誌の要望もあってか、かなりストレートな恋愛小説を書いている。
これはこれですてきな作品集だけど、連続して読んでいると、少し飽きる部分もなくはない。
シチュエーションは異なれ、結局主筋にあるのは、誰かが誰かに恋をする、という展開でしかないからだ。
個人的な趣味を言うなら、恋愛主眼の話は物足りない。


それでもこの本には、作家特有の味が出ており、その個性が僕の心を惹いてやまないことも事実だ。

どの作品も、文章には独特の叙情があって忘れがたいし、ときどきくすりとさせられるような優れたユーモアがある点はおもしろく、読んでいて「切ない」と思えるようなシーンにはいくつも出くわす。
物語の構成も抜群で、その技術には読んでいても惚れ惚れとしてしまう。
また設定も微妙にひねくれており、恋人同士のふりをする話とか、カセットテープに吹き込まれた声から憧れの人物が作家として活躍していると知る話とか、なかなか楽しい。


個人的にもっとも好きなのは『なみうちぎわ』だ。

家庭教師の教え子である少年を助けようとして、海で溺れた少女が、五年後に意識を回復。家族や元教え子の助けを借りて、リハビリにはげむが……という話である。

普通にいい話なのだが、特にラストの海岸でたき火をするシーンが好きだ。
そこでやり取りされるユーモアあふれる二人のやり取りも好きだし、たき火をするシーンの叙情性なんかは美しいな、とすなおに思える。燃焼反応の化学式の使い方なんかはすてきで上手い。
またそこで明かされる真相もミステリ的な味わいがあっておもしろく、同時にずいぶんと切ない気分にさせられる。
ツッコミどころがないとは言わないけれど、前向きなラストと切なさが、非常に心に響く一品である。


そのほかの作品もすばらしい。

少年の繊細な恋愛感情の描写、四角関係の裏にかくされた真相、主人公の友人田辺の友だち思いの言動がすてきな、『百瀬、こっちを向いて』。
ミステリ風味もある、さわやかな一品の、『キャベツ畑に彼の声』。
オチはベタなのだが、美人すぎるがゆえのコンプレックスとトラウマを克服していく過程や、主人公を勇気づける地味な友人二人の姿にちょっと感動する、『小梅が通る』。

どの作品も、作中に漂う雰囲気や物語は、いかにもこの作家らしい。
読後感は良く、センスあふれる一冊である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
ジャンル:
小説
キーワード
美人すぎる 暗いところで待ち合わせ 祥伝社文庫
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9 コメント

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こんばんは☆ (かな)
2012-11-03 00:24:11
本屋さんで昨日、こちらの本を見つけたので購入しました!早速読んでみましたが、とても良かったです♪

名前を変えているだけあり、いつもの乙一さんとは違い、ストレートに恋の話を書かれてますね!

四作ともすごく良かったです(^ ^)
どの話も丁寧に恋の始まりが描かれていたり、切なかったりして、とても素敵でした☆

「なみうちぎわ」本当に良かったです!焚き火しながら、二人で語るシーンで泣いてしまいました。

四作ともラストも微笑ましかったり、前向きだったりして、明るく爽やかでとても好みでした(*^_^*)

乙一さんの作品もドンデン返しがあったりして、続きが読みたくなり好きですが、別名の中田永一さんの作品も大好きになりました(^ ^)

どの話も優しい人物が出てきて、とても素敵ですね!
乙一さんが別名でも作品書かれている事も知らなかったので教えて頂き、本当に良かったです!

またお気に入りの作品が増えました!ありがとうございました★
こんばんは (qwer0987)
2012-11-04 21:04:11
『百瀬』読まれたんですね。
ストレートな恋愛小説ですが、乙一らしさが出ています。最初は覆面デビューだったそうですが、発表してすぐに正体がばれたそうです。何かわかるような。

恋愛特有のせつなさが前面に出ている作品が多いですね。しかも言われているように明るくて爽やかですし。
確かにどの話も優しい人物が多いです。乙一の性格が出ているな、って感じます。
本当に「なみうちぎわ」はいい作品です。焚火のシーンは絶品と思います。

気に入ってくれたみたいで、良かったです。
こんばんは☆ (かな)
2012-12-23 23:25:00
qwer0987さんのオススメで百瀬を読んですっごく良かったので、同じく中田永一さんの吉祥寺の朝比奈くんを購読しました!

qwer0987さんも読まれましたか?百瀬も大好きですが、朝比奈くんもとっても良かったです♪

百瀬のように優しい雰囲気で、切なくもあり、きゅんとくるところもあり最高でした☆

しかも乙一さんらしく、意外な展開もあり、とても楽しむ事ができ、大満足です(*^_^*)

5つの短編の中では、三角形はこわさないでおくと、吉祥寺の朝比奈くんが特にお気に入りです♪他の作品もツボでした!百瀬以上に好きかも知れません!

中田永一作品これからも読んでいきたいと思いました(^ ^)本当にありがとうございます★
こんばんは (qwer0987)
2012-12-25 21:07:28
『吉祥寺の朝比奈くん』は前から読みたいと思ってるんですけど、まだ手に取れてません。
感想を読んでいると、期待通り面白そうですね。百瀬以上ってなると、相当なものですね。読む前から楽しみになります。
いつかは読みたいな、と思っているので、そのいつかが来て読むことができたら感想アップします。
こんばんは☆ (かな)
2012-12-31 23:22:02
今年はこちらのブログを見つける事ができたお陰でqwer0987さんに出逢う事ができて、そしてたくさんの素敵な映画や小説に出逢う事ができました♪
本当にありがとうございます(*^_^*)

読書メーターもqwer0987さんのお陰で知る事ができ、更に読書をするのや交流するのが楽しくなりました(^ ^)本当に感謝しております!

これからもいろいろ参考にさせてもらいますね♪
ちなみに今は、ピースの又吉さんの本や原田マハさんのキネマの神様を読んでいるところです!

まだ未読ですが悪の経典や永遠の0も購入してみました!読むのが楽しみです(^ ^)

来年もよろしくお願いします★
あけましておめでとうございます (qwer0987)
2013-01-06 22:11:48
かなさん、こんばんは。

こんなブログですが、何かの役に立ったのなら幸いです。
読書メーター使いこなしているようですね。僕はまったくなので、なかなかうらやましいです。

ピース又吉の読書本は僕も本好きとしては興味ありました。原田マハ作品は未読な分、いつか読みたいな、と思っているだけに関心もあります。
「永遠の0」は映画化もされるみたいですし、読めば感動できるかと思いますよ。

今年もお願いします。
今年もよろしくお願いします♪ (かや)
2013-01-06 22:46:41
こんばんは!
いつも参考にさせてもらっています(^ ^)
ありがとうございます★

ピース又吉さんの第2図書係補佐すごく素敵ですよ〜♪読書メーターでもたくさんの人にオススメさせてもらいました!又吉さんのお人柄、本への愛情をすごく感じますし、本の解説とかではなく、いろんな昔のエピソードを語られて最後2〜3行で本の事が書かれていたりします。それが本当に絶妙で、いろんな本を読んでみたくなりました!

又吉さんのエピソードも笑ってしまうところがたくさんあり、外でも思わず声を出して笑ってしまう感じでした(*^_^*)

手元に置いておきたくなるような本なので購入して本当に良かったと思います!すごくオススメです!

永遠の0、今日、読み終わりました!先程こちらのそのページにコメントさせてもらいました!すごい作品で泣きまくってしまいました(;_;)本当に永遠の0も読んで良かったと心から思います!

今年も大変お世話になりますが、よろしくお願いします★
上のコメントの名前間違えました! (かな)
2013-01-07 16:18:12
ごめんなさい。入力ミスに今頃、気づきましたぁ。
「かな」です!名前を間違えたら誰だかわからないですよね。いつもすみません。よろしくお願いします♪
こんばんは (qwer0987)
2013-01-07 20:59:44
「第2図書係補佐」は立ち読みでちょろっとだけ読みました。
本のラインナップもなかなかいいな、って思ったし、内容もさらっと目を通しただけだと、興味を持てそうでした。
笑える部分もあるんですね。
まずは買うところから始めて、マイペースで手に取っていこうかなって思います。

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