2011年度作品。日本映画。
ある夏、25年ぶりに兄ソンホが北朝鮮から戻 ってきた。在日朝鮮人2世で日本語教師をしているリエ、同胞協会幹部の父、優しい母の3人で暮らす家族のもとへ、病気治療のため特別に3ヵ月だけ許可をもらっての事だった。少年時代の帰国事業で移住して以来のソンホの帰国に喜ぶ家族だが、ソンホは多くを語らない。監視の目が常に付く中、リエは次第に苛立ちを覚える。家族に沸き起こる感情が25年の空白を埋めていく…。
監督はヤン・ヨンヒ。
出演は安藤サクラ、井浦新ら。
世の中には理不尽なことがいろいろあるわけで、たとえば大きな力で相手の自由や尊厳を奪うってのはその典型なのだろう。
そして北朝鮮では今の時代でもそんなことが平気で行われている。
日本人から見ると、それは本当に意味がわからないのだけど、朝鮮系の在日の人だって、思いは同じであるらしい。
主人公は在日の女性で、父は朝鮮総連の幹部のようだ。そんな家族の元に25年前、北朝鮮に渡っていた兄が病気治療で日本にもどってくる。
家族は、昔のように兄に対して暖かく接するけれど、兄と家族との間には、北朝鮮に住んでいるがゆえの壁のようなものが時折立ちはだかる。
たとえば兄の行動は常に監視されているし、北朝鮮でどんな生活を送っているか、日本で語ることは許されない。それに、妹へスパイになるよう頼まざるをえなかったりする。
そこにあるのは、まぎれもない息苦しさだ。
しかしそれが自由を奪われるということなのだろう。
実際、兄は北朝鮮での生活するには、何も考えずに従うのだ、と言っている。
ひどい話だが、実際そうせざるをえないのかもしれない。
兄を愛する家族からすれば、そんなことは腹立たしい限りだ。
日本という自由な国に住んでいるから怒りたくなるのも自然なことだと思う。
だから妹のほうも、彼女なりに怒りを露わにしている。
しかし兄を監視する男が言うように、彼女が怒りをぶつけたくなるような国に、愛する兄は現実に住んでいるのだ。
そのゆるぎようのない事実が、ただただ重い。
それだけに、ラストで兄の手をなかなか離さなかった妹のささやかな抵抗と、日本の歌を口ずさむ兄の場面が、じんわりと胸に響いてくる。
現実は変えられないが、思いだけは消えない。そんなことを思う。
本作は、内容的に見ても、恐ろしく地味な作品ではある。
しかしその味わいは滋味深く、強烈でないけど、じわじわと心に訴える力を持っている。
見終わった後も、長く心に残るすてきな作品である。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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