私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『シャイニング』 スティーヴン・キング

2008-12-07 10:08:55 | 小説(海外ミステリ等)

《景観荘(オーバールック)》ホテルはコロラド山中にあり、美しいたたずまいをもつリゾート・ホテル。だが冬季には零下25度の酷寒と積雪に閉ざされ、外界から完全に隔離される。そのホテルに作家とその妻、5歳の息子が一冬の管理人として住み込んだ。
S・キューブリックによる映画化作品でも有名な「幽霊屋敷」ものの金字塔が、いま幕を開ける!
深町眞理子 訳
出版社:文藝春秋(文春文庫)


スタンリー・キューブリックの「シャイニング」を見たのは二年近く前で、ジャック・ニコルソンの怪演と大ざっぱな流れしか記憶に残っていないのだが、それでも本書と映画版ではいくらかの違いがあることに気づかされる。特にラストは大違いで少し驚かされる。
もちろん映画は映画で良かったと思うのだが、プロットや物語が持つ深みという観点からすれば、映画は原作には到底及んではいない。そう感じた理由は原作である本書では、人間の心理が事細かに描かれているからだ。

とにかく原作の心理描写の緻密さには目を見張るほかない。
この作品では、夫、妻、息子の三人の心理が細かく描写されているが、それによって、彼らのキャラクターや背負っている過去が充分すぎるくらいに伝わってくる。幾分長い作品だが、これだけの心理を完全に描ききるにはこれだけの分量が必要だったのだろう、と納得せざるを得ない。

特にジャックの心理は強いインパクトを残す。
小説家で、教師もやっていた彼は事件を起こして教職を追われ、ホテルの管理人につく。そこではもちろん正の感情も描かれるのだが、それもどす黒いまでの負の感情の描写にはかなわない。
そこでは、妻や息子が自分に思い通りに動いてくれないことや、妻が自分を詮索してくることへの苛立ち、自分の人生やキャリアが思い通りにならず、負け組に向かうことへのおびえ、父から受けた虐待とトラウマティックな記憶などなどの描写が、これでもかとばかりに積み重ねられていく。よくもここまで人物像をつくり上げ、それを描き上げたものだ、と感心するばかりだ。
もちろん妻ウェンディの心理描写も優れている。母に対する記憶や、息子の愛情が自分に向いていないことへの苛立ちの描写には圧倒される。

プロットの構築も丁寧で、特に人間の心理に、ホテルという場の魔力を上手く融合させるあたりはさすがに上手い。負の感情と、悪魔的な雰囲気、ホテルの歴史の混ざり具合が絶妙で、緻密に張られた伏線も見事だ。
そしてラストでハラハラとさせられ、盛り上がる点が単純におもしろい。特に狂気に陥ったジャックが殺戮に走るシーンのぞくぞくすること。それでいてラストで父親の愛情が顔をのぞかせるから見事なものだと思う。
心理小説としてもエンタメとしても一級の作品である。満足そのものの一品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


本書の映画化作品の感想
 「シャイニング」

そのほかのスティーヴン・キング作品感想
 『It』

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