私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ラスト、コーション」

2008-02-10 10:12:48 | 映画(ら・わ行)

2007年度作品。アメリカ=中国=台湾=香港映画
1940年、日本統治下の上海。傀儡政権の大臣にまで登り詰めようとする男に近づき、誘惑した末に暗殺を企てる娘。ほのかな思慕を胸に抱きつつも、娘を暗殺者へと教育していく若き革命家。激動の時代に巻き込まれながら、自らの宿命に翻弄されてく男と女。『ブロークバック・マウンテン』の静かな感動から3年の歳月を経て、オスカー受賞監督アン・リーが、極限の愛の映像世界に挑んだ衝撃の問題作。
監督は「グリーン・デスティニー」のアン・リー。
出演は「インファナル・アフェア」のトニー・レオン、タン・ウェイ ら。


日本占領下の上海を舞台に女スパイが敵の高官に接近、やがて愛情を抱く――その設定だけ聞くなら、いかにもベタでメロドラマティックだ。だが映画自体はベタというほどでもなく、退屈することもなく、その豊かなドラマ性を存分に堪能することができる仕上がりとなっている。
映画自体は2時間半とやや長めであるが、長いとほとんど感じることない。
それもうねりのあるプロットで飽きさせないつくりになっているのが大きいだろう。

しかし本作はそういったドラマ性以上に、登場人物の心理描写に大変光るものが感じられた。
繊細な作風のアン・リーだけあり、人物の心理を映像に乗せる手法は堂に入っている。決して説明過多にならず、人物の周囲を描写し、表情を映すことで心理を的確に伝える様は、とにかく抜群に上手い。

たとえば政府の高官のイーはどうだろう。彼は幾分サディスティックな部分があり、暴力的な男だ。
特に最初に女と関係を持つシーンなどはほとんど強姦そのもので、見ていてドン引きしてしまう。
しかしそのサドな部分は(もちろん生来のものもあろうが)何者をも信じることができず、拷問をすることが仕事になってしまったがゆえに、心がすさんでしまったことも起因していることが何となく伝わってくる。また時間が経つにつれ、徐々に女に向ける視線が柔らかくなっており、ああこの人は女に惹かれているんだな、ということが感じ取れ、見ていても心地よいものがあった。ラストの表情にも哀感が読み取れる。
もちろんトニー・レオンの演技の上手さがあって、それらが初めて成立することは言うまでもない。

また女の方の心理描写も非常に上手い。
女は抗日戦争に身を投じているが、その理由は決して高邁な理想のためではなく(もちろん日本軍に向ける視線からして、日本を嫌っているのは伝わるが)、もっと個人的な恋愛感情なり仲間意識なりが原因らしい点が個人的にはおもしろく見えた。そんなことはどこにも言及されていないが、そう感じさせる余地を与えているところが好ましい。
また香港時代に目的のため、好きでもない男と関係を持たざるをえなかったときの表情がきわめて情感豊かで、胸に突き刺さるものもある。また男との関係を重ねるにつれ、イーに惹かれていく姿も丁寧に描かれているのが目を引く。
こちらもトニー・レオン同様、新人女優タン・ウェイの演技があってのもので、彼女のすばらしさを知らされた思いだ。

ドラマ性、心理描写共に際立っており、映画を見ている間は非常に楽しい時間をすごすことができる。
ただラストが物足りなかったことが個人的には残念だ。ダイヤモンドの使い方は上手いものの、ラストの着地で衝撃を生むわけでも、余韻を残すわけでもなく、そのあたりにツメの甘さを感じる。そのため見終わった後、パンチが弱いな、と感じたことは否定できない。
しかし映画としてはべらぼうに上手く、文学的な雰囲気も漂っており、鑑賞中はドキドキしながら見ることができる。
個人的には多くの人に見てほしい作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・アン・リー監督作
 「ブロークバック・マウンテン」
・トニー・レオン出演作
 「傷だらけの男たち」

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