路傍の露草 ~徒然なる儘、読書日記。時々、映画。~

“夏の朝の野に咲く、清廉な縹色の小花”
そう言うに値する小説や映画等の作品評。
及び生活の単なる備忘録。

林真理子『葡萄が目にしみる』

2008年01月29日 | Book[小説]
林真理子『葡萄が目にしみる』
1986年3月10日初版発行
角川文庫


【裏表紙より】
葡萄づくりの町。地方の進学高校。自転車の車輪を軋ませて、乃里子は青春の門をくぐる。生徒会の役員保坂に寄せる淡い想い。ラグビー部の超スター岩永との葛藤。冴えない容姿にコンプレックスを抱き、不器用な自分をもどかしく思いながら過ごした思春期―。
目にしみる四季の移ろいを背景に、素朴で多感な少女の青春の軌跡を鮮やかに描き上げた感動の長編小説。

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昨夜、林真理子の『葡萄が目にしみる』を読了。

(『葡萄が目にしみる』というタイトルは、プラターズの名曲『煙草が目にしみる』を連想させるのだが、私だけ?関連があるのだろうか。)


さて。
半自伝的な、瑞々しい青春物語の傑作、という噂を聞いて読んでみたのだが、
どこが瑞々しいのか?

とにかく性的エピソードが満載で、驚いた。

林真理子が青春物を書くと、こうなるんだ―――ということは分かった(笑)。



乱暴に言ってしまえば、
ブドウ農園が広がる田舎の中学・高校、というほのぼのとした場所を舞台にして、
強烈なフェロモンを持つオスと、オスに惹かれて取り巻くメスたちによるハーレムを書いた物語。


いち早くオスに目覚めた男子学生は、魅力あるメスを次々食べてゆく。
弱いオスはこのオスの後をついて回っておこぼれに預かり、
その他、圧倒されたオスは、不満げに遠巻きに眺めるだけ。
そして、主人公のメスは、メスとしての魅力がないので相手にしてもらえず、
ジレンマを抱えてゆく――と書いたら大げさに聞こえるが、そんな話(笑)。

輪姦だの強姦だの自慰だの「愛されたい」だの、とても課題図書にできないようなエピソードの嵐。


確かに思春期というのは、性的に目覚める年頃だけど、
高校生の頃の自分を思い出してみると、早熟でもなければ初心でもなく、
中森明菜じゃないが、「いわゆる普通の17歳」(笑)だったと思うが、
『葡萄…』の主人公・乃里子のように、ここまで性的な視線(感覚)で
同級生たち(同性・異性)を見てなどいなかった。
…と考えると、この主人公はちょっと異常?というか、敏感すぎ。


主人公の早熟な視線(感性)には、とにかく驚いたと同時に、
読んでいるこちらが気恥ずかしくなってしまった。
というか、アイタタタという感じ。。

林さん、相当魅力のない女子だったんでしょうね…(すいません)。



そんな林さんですが。

先日読んだ『テネシーワルツ』で、林真理子は、平凡なのに自意識だけは強い女を巧みに書いていたが、
それは、そのまま『葡萄が…』とも共通する。


プールの授業で、水着を着た主人公を見て男子たちが「メスカバ」と言って笑う場面がある。
また、友人に自意識過剰だと指摘される場面がある。


おそらく、林真理子にそういう体験があったのだと思うけれど、
封印したい酷い過去を引きずり出して、直木賞候補に挙がるような華やかな商業出版物にまで昇華させてしまう林真理子のパワーに拍手。


もちろん、自分の体験を切り売りする作家という職業に就く者なら誰でも
多かれ少なかれ、自意識は強いはずだが、ここまでの人も滅多にいないのでは。

(ananで長寿連載中のエッセイ【美人入門】このタイトルも凄まじい。)


自意識の強さもここまで来れば、素晴らしい才能である。



というわけで、ここ最近、林真理子漬けの私。

2度目のマイブームである。

(林真理子を批判する読書家も多いけど、良くも悪くもパワーがもらえるから私は好きだ。)


今年に入って読んだのは、

『ロストワールド』(アーバンもの)
    ↓
『テネシーワルツ』(モデル小説)
    ↓
『葡萄が目にしみる』(異色の青春もの)



次は、『花探し』を読もうかなとも思ったが、これも“アーバンもの”なので、『幸福御礼』という“家族もの”を読むことにした。

家族ものでは、さすがに性的感性は出てこないと期待したい(笑)。



あぁ、こんなに【怖い見たさ】な気分にさせてくれる女流作家は他にいない!







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