貧乏という名の家族

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貧乏という名の家族

■本当に『貧乏』というもの？
物心ついた時に貧乏だと、それが普通なので自分の家が貧乏だとは気づかないものだ。
僕がハッキリとそれに気づいたのは小学3年生の頃だ。
家が金物屋(鍋などの金物を扱う店。今は少ない)をしている友達のK君というのがいて家に遊びに来いと言う。
K君の家族は両親と子供二人(両方男)、当時ではもっともポピュラーな家族構成だった。
言い忘れていたが僕の家もまったく同じ家族構成だった。
しかし、大きく違ったのは彼の家はバブル全盛で大金持ちだったのです!
僕が家に入って、驚いたのは漫画雑誌の棚が専用であった事。彼は毎週少年ジャンプやチャンピオンを買ってもらっていて、これは当時では非常にうらやましい事だった!!
当時の子供の小遣いは月に300円前後、週刊誌は150円前後なのでひと月に二冊しか買えません。ですので当時の漫画家は気をつかってくれていたのか、やたら読み切りのギャグマンガなどが全盛だった。長編物は単行本で買うのだが、当時300円の単行本を買うのは正月(お年玉をもらった時)だけだった。(当時の僕はクリスマスにプレゼントをもらえる事は少なく、『キリスト教のお祝い』だと教えられた)

■オフクロの言葉
僕はその時、初めて漫画をまとめて５冊以上読んだ。
しばらくして「参考書を買いに行こう」と言う。
その日、担任が参考書を使って勉強している成績優秀なY君を誉めたのがうらやましいかったらしい。単純そのものだ。
参考書は持っていても賢くならない、読んで理解しなければ・・・・K君はそれをできるような子には見えない。その点では僕も同じだった。
しかし「お前も一緒に買いに行こう」というので、仕方なく家にお金をとりに帰った。
家に帰るとオフクロに「お母ちゃん、参考書を買うのでお金をくれ」言った。
するとオフクロは少々、意外な事を言う「参考書はもっているだろ」
僕は目を丸くしたが、すぐに気づいた。「言っとくけど、国語辞典は参考書じゃないよ」
(オフクロは小学生の頃、家が貧乏で子守りの仕事をしていたので、まったくの無学だった)
僕は続けて「参考書というのは授業の内容をわかりやすく書いた本なんだ」
「ちゃんと、授業聞いていたらそんな本いらんだろ」
「先生も参考書を買った方がいいって言ってた」
「まあ、先生はやる気がないね。抗議しなくっちゃ・・・。それで、いくらなんだい」
「安いのは800円～1500円ぐらい」
「そんなに高い本があるのかい!!」
「普通だよ」
「今日、カツ丼にしてあげるから、参考書はあきらめなさい」と言う。
当時の僕には好条件だったらしい・・・・。

僕はK君の家にもう一度行き、
「今日はカツ丼食べるので、参考書は買いに行かない」と告げた。
K君はてっきり、カツ丼を今から食べるので遅くなるので行かないと思ったらしい
「じゃあ、今度、行こう」と言う。
僕はそれっきり中学になるまで参考書は買ってもらえなかった。
しばらくして、今度はK君が僕の家に来た。あまりの貧乏長屋に衝撃をうけたらしく、あくる日から学校に行くと、みんなに僕の家の話をしてた。おかげで僕はボロ家に住むかわいそうな少年というイメージがついた。ただしI君だけはかばってくれた。よく似た長屋に住んでいたせいである。

■マイ・マザーの格言
しかし、人生とは不思議なものだ。
僕は決して成績はよくなかったがK君はその僕を抜く事はなかった。だから参考書とは役に立たないものなんだと思っていた。
高学年になった頃、突然、金物屋が閉店になりK君は引っ越した。
僕は少しマシな『●●マンション』と言う名のアパートに引っ越していた。
高校生になってK君に会い、声をかけたら無視された。
その話をずっと貧乏長屋に暮らしているI君に話したら、K君の家族が隣りの地区にあるボロ屋に住んでいる事を教えてくれた。
K君にとってはコンプレックスだったのだろう。貧乏を極端に嫌っていたから・・・。

貧乏である事は恥ずかしい事だという人がいるが、そんな人は自分が貧乏になるのを恐れて、虚勢を張っているのだろう。
しかし、偉大なオフクロ(マイ・マザー)は言う。
「世界中の３分の２以上の人が貧乏なのだから、恥ずかしいのは『多数の原理』でいくと金持ちの方だ」
ある意味、正論である。

※今回の挿絵は間に合わなかったので僕の作品の中から『ロボット漫才』を掲載しました。

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