エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第一部  第七章 13

2017-05-19 10:40:08 | 「ファイルナンバー1...
「一体どうしたと言うんだ?」苛立ちを抑えることが出来ず、彼はすぐに尋ねた。「何が起きたんだ?」
「何も」
「何だと! あっちでは何も危ないことは起きてないのか?」
「全然。ついでに言うと、あんたの度外れの強欲がなけりゃ、万事申し分なしだよ」
ルイは、怒りの咆哮とも言うべき大声を出した。
「そんなら、何故こんなところに来た! 誰が持ち場を離れていいと言った? 俺たちの身が危うくなるんだぞ」
「それは」とラウルは世にも平然と答えた。「俺の勝手だろ」
ルイは乱暴にラウルの手首を掴むと、相手が叫び声を上げるまで締め上げた。
「説明しろ」今すぐにでも危害が及ぶことを相手に分からせる短い嗄れ声でルイは言った。「お前の気紛れな行動の理由を俺に説明するんだ」
ラウルは何の造作もないかのように、こんな力が彼にあろうとは誰も思いもしないであろうような力で、締め付けていた相手の腕を払った。
「お手柔らかに頼むよ、おっさん」彼はこの上なく挑戦的な調子で言った。「乱暴に扱われるのはご免だね。それに俺にも対抗手段があるんだぜ」
そう言うと同時に、彼はポケットから拳銃を半分抜き出して見せた。
「ちゃんとした理由を言え!」ルイは言い張った。「さもないと……」
「さもないと何だよ? 俺を怖がらせようなんて今後一切思わないことだな。説明はしてやるよ。だがここじゃまずい。大きな道の真ん中で、こんなに月が明るいところではな。誰に見られているか、分かったもんじゃないだろ? さ、こっちだ」
二人は道の境界線になっている溝を飛び越え、トウモロコシを構わず足で踏みにじりながら畑を横切り、遠ざかって行った。
「さて」通りからかなり離れたところまで来たときラウルが切り出した。「親愛なる叔父上殿、なんで俺がここまでやって来たか、そのわけを話そうか。あんたからの手紙を受け取って、俺は何度も読み返したよ。あんたは慎重に事を運びたい、それは分かったが、あまりにも曖昧で事情が分からない。あんたの書いてきたことの中で一つ確かなことは、俺たちが大変な危機に直面してるってことだ」
「だからこそ、分からん奴だな、用心の上にも用心せんといかんのだ」
「そりゃいかにも御尤もだ。但し、ご立派な叔父さんよ、危機に立ち向かう前にだな、それが一体どういう危機なのか聞かせて貰いたい。俺は危険をいとわない男だが、自分がどんな危険を冒しているのか、知っておきたいんだよ」
「おとなしくしてりゃいい、って言ってるだろ」
ラウルは、パリの悪童がブルジョワの馬鹿正直な信じやすさを嘲笑するときの狡猾な身振りをした。
「そうかい」彼は言い返した。「俺はあんたに全幅の信頼を置かなきゃならない、ってのか?」
「そのとおりだ。わしは今までお前の為にさんざんしてやったというのに、疑うなんて馬鹿げている。
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