エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第一部  第八章 11

2017-06-13 12:45:19 | 「ファイルナンバー1...
プロスペルの親しい友人であり、彼の相談相手でもあるラウルは、その慧眼で状況を判断し、プロスペルの心の奥の密かな感情を見抜いていた。
「あんたはプロスペルのことが分かってないよ、叔父さん。マドレーヌが彼に別れを告げて以来、彼は死んだも同然なのさ。何事にも投げやりで、何にも興味を持たないんだ」
「しばらく様子を見てみよう」
事実彼らは様子を見ていた。その間フォヴェル夫人が大いに驚いことには、ラウルがクラムランの留守中と同じ状態にまた戻ったのだった。この変化に大喜びした夫人が、ラウルを夫の会社で働かせてみては、と思いついたのはこの頃である。フォヴェル氏はこの案を受け入れた。若い者が仕事もなくぶらぶらしていては碌なことがない、と思っていた彼はラウルに、月五百フランの俸給で文書課で働かないか、と持ちかけた。この申し出にラウルは喜んだのだが、クラムランからの厳命を受け、ぴしゃりと撥ね付けた。金融会社で働くことは自分の天命ではない、というのがその理由だった。
この拒絶にフォヴェル氏はいたく気を悪くし、ラウルに向かってかなり苦々しい非難をした挙句、今後はもう自分のことを当てにしてくれるな、と言い渡した。ラウルはこの機会を捉え、表だって訪問するのを止めた。彼が母に会うのは、フォヴェル氏がいないことが分かっている午後か夜になってからで、それもフォヴェル家の中の動静を探るのに必要な程度の頻度に限られた。
あれほど容赦ない狼藉を働いた後の突然の平和にマドレーヌは不吉なものを感じた。彼女は自分の予感については叔母に何も言わなかったものの、覚悟はしていた。
「あの人たち何を考えているのかしら?」時折フォヴェル夫人は言った。「ついに私たちを苛めるのをやめるつもりかしら?」
「そうね」マドレーヌは呟いた。「一体何をしているんでしょう?」
ルイとラウルが、死んでいるかのようにひっそりしていたのは、狙った獲物が警戒するのを恐れてじっと動かず待ち伏せしている猟師のようなものだったからだ。彼らは機会を狙っていた。
プロスペルの傍を離れず、ラウルはありとあらゆる知恵を働かせ、プロスペルに罠をかけて悪の道に誘いこもうとした。が、彼の予想した通り、無気力なプロスペルに対し、彼は取っ掛かりを見出せなかった。
クラムランはじれ始め、もっと手っ取り早い方法はないか、と思案していた。そんなある夜、三時頃に彼はラウルに起こされた。
「一体どうしたのだ?」彼はひどく不安そうに尋ねた。
「何でもない可能性もあるけど、ひょっとしたら大当たりかもしれない。たった今プロスペルと別れてきたところだ」
「それで!」
「俺はやつを食事に誘い出したのさ。マダム・ジプシーと俺のダチ三人と一緒に。食後、俺はダンスに連れ出した。かなりきわどいのをやったんだ。けど、プロスペルを引き摺り込むことは出来なかった。やつはちょっと酔っぱらってたんだけど」
ルイは期待が外れ、いまいましさを身体で表した。
「酔っぱらってるのはお前の方だろ。夜中にわしを叩き起こして、こんなくだらん話をきかせるとは」
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