エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第一部  第七章 14

2017-05-20 10:20:54 | 「ファイルナンバー1...
ロンドンまで行って、将来の当てもないお前を連れて来てやったのは誰だと思ってるんだ? このわしだ。何一つ持たないお前に、名前と家族を与えてやったのは誰だ? やはりわしだ。お前に現在を保証してやっている上に、未来の面倒も見てやろうとして今も骨を折っているのは誰だ? わしだ。全部このわしだぞ」
ラウルはじっと聞くには聞いていたが、冷笑するようなわざとらしい深刻さを装っていた。
「素晴らしい!」彼は遮った。「見事だ。最高だよ! そんなら聞くけど、なんであんたが俺に尽くしてくれるのか、その理由を言わないのは何故だい? あんたが俺を探し出したのは、俺が必要だったからじゃないって言うのか? さぁ、言ってみろよ。あんたほど気前の良い、私利私欲のない叔父はいないってか。それじゃモンティヨン賞(J.B.モンティヨン氏発案の、慈善家に対して与えられる賞)でも貰うか。俺が推薦状を書いてやるよ」
クラムランは黙っていた。怒りを爆発させてしまったらどんなことになるか、を危惧していた。
「いいだろう」ラウルは言葉を続けた。「子供みたいな真似はここらで止めよう、叔父上殿。俺がここへ来たのは、あんたって人間を知ってるからだよ。俺のあんたに対する信頼は大きすぎも小さすぎもしない。もし俺を裏切ることがあんたの得になると思ったら、あんたは一秒の躊躇もしないだろう。危険が迫れば、自分だけ助かって、あんたの大事な甥っ子には一人で何とかしろ、とおっぽり出す。おっと! そうじゃないなんて言うなよ。それは当たり前のことなんだから。逆の立場だったら、俺も同じことをするぜ。ただ、これだけはよく覚えておきな。俺はやられっぱなしになっているような男じゃないぜ。まぁこの辺にしておこうか、無駄にいがみ合うのは。それじゃ、事実を聞かせて貰おうか……」
このような共犯者を軽く扱うわけには行かない、ということがルイにも分かった。それで腹を立てるのはやめて、彼は手短にかつ明確に彼が兄のもとに来てからの出来事を話して聞かせた。すべての点でほぼ正直に話したのだが、兄の財産に関しては思いきり少なめにしておいた。
話し終えるとラウルが言った。
「そういうことか! 難しいことになってきたな。で、あんたは何とか切り抜けようって腹だな?」
「ああ、お前が裏切らなけりゃな」
「俺は今まで誰も裏切ったことなんかないぜ、分かってるか、侯爵さんよ。しかし、実際どうやるつもりなんだ?」
「分からないが、何らかの対策が見つかるような気がしている。いやいや、見つけなくてはならん。お前は、分かってるな、こっそりと立ち去るんだ。パリではお前に何の危険もない。俺はここでガストンを見張っている」
ラウルは考え込んでいた。
「何の危険もない? 本当にそう思うか?」
「そうとも! 俺たちはちゃんとフォヴェル夫人を捕まえてあるじゃないか。俺たちに刃向うようなことなど言うものか。もし彼女が真実を、俺たちだけしか知らない真実を知ったとしても、それでも彼女は口をつぐんでいるだろう。彼女の若い頃の過ちに対する罰や、世間の非難や、夫の恨みから逃れられるんだから」
「確かにそうだな」ラウルは真面目になって答えた。「御母上は抑えこんである。が、俺の気がかりは彼女じゃないんだ」
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