エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第一部  第九章 3

2017-06-19 12:40:29 | 「ファイルナンバー1...
フォヴェル夫人は残酷なまでに心をかき乱されていたので、ラウルの巧みな展開について行けなかった。
「お話しなさい!」彼女は叫んだ。「ちゃんと仰い。私はあなたの母親でしょう? 本当のことを話しなさい。最後まで聞くわよ」
「僕は破滅したんです!」
「破滅って……」
「そうなんです。もう期待も希望もありません。僕は恥辱にまみれました。それも自分が仕出かしたことです。自分の大失敗がもとで」
「ラウル!」
「そういうことです。でも、お母さん、心配しないで。お母さんから貰ったこの名前に泥を塗るようなことはしませんから。恥を忍んでおめおめと生きていようとは思いません。少なくとも、それぐらいの人並みな勇気はあります。お母さん、僕のことを可哀想と思わないで……。僕は運命に虐げられる人間の一人なんです。逃げ場所は死しかありません。僕は悲劇的な運命の人間です。僕を産んだことで、あなたは中傷されはしませんでしたか? 僕のことを思うと後悔の念で眠れぬ夜を幾夜も過ごしたでしょう。後に、僕はあなたに巡り会えましたが、あなたの献身と引き換えに、僕はあなたの人生に不幸をもたらした……」
「何てことを言うの! 私がお前を非難したことがあって?」
「いいえ、一度も。だからこそ、あなたを祝福しつつ、愛するあなたの名前を呼びながら、あなたのラウルは死んで行くのです」
「死ぬだなんて!」
「そうしなければならないのです、お母さん。名誉のために。僕は自分の意志と自分の良心というふたりの裁判官から完膚なきまでに有罪宣告を受けたのです」
一時間前ならば、フォヴェル夫人は一人の女が経験し得る限りの苦労をラウルによってさせられたと断言したであろう。しかし今になってまた新たに、かくも痛ましい苦しみを与えられたので、今までの苦労は消し飛んでしまった。
「一体お前は何をしたの?」彼女はおずおずと尋ねた。
「金を預かったのだけれど、それを賭け事に使ってすってしまったんです」
「大金なのね?」
「いや、そんなこともないけれど、お母さんや僕には用意できない額だよ。可哀想なお母さん! 僕が全部取ってしまったから。お母さんの最後の宝石まで」
「でもクラムランさんはお金持ちだわ。あの方のお金は、私に自由に使っていい、と言ってくれたわ。すぐに馬車の用意をさせるわ。彼に会って……」
「クラムラン氏はここ一週間留守なんです。僕がお金を返さなければならないのは、今夜なのに。でなければ身の破滅だ。いいさ。こう決心するに至るまでには、あらゆることを考えました。二十歳のときには生に執着するものです」
 彼はポケットに入れてある拳銃を半分引き出して見せ、引き攣った笑いを浮かべて付け加えた。
「これがすべてを解決してくれます」
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