エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第一部  第八章 12

2017-06-14 11:24:02 | 「ファイルナンバー1...
「待って、まだ先があるんだ」
「なら、さっさと話せ!」
「たっぷり遊んだ後で、俺たちは夜食を食いに行った。で、プロスペルはますます酩酊して、金庫を閉めるときの合言葉について口を滑らしたんだ」
これを聞くと、クラムランは思わず勝利の叫び声を上げた。
「その合言葉は何だ?」彼は尋ねた。
「彼の愛人の名前さ」
「ジプシーか!……なるほど、そうに違いない、五文字だからな……」
彼は大層興奮してじっとしておれなくなり、ベッドから飛び降りると、部屋着を引っ掛け、大股で部屋の中を歩き回り始めた。
「やつを捕まえたぞ!」彼はしてやったりという憎悪に燃える顔つきで叫んだ。「もうこっちのものだ!あいつは、あの正直者の出納係は、金庫に手を付けたりはせん、というわけだろうが、わしらが奴に代わって手をつけてやる。それでお誂えむきに奴が疑われる。わしらは合言葉も、鍵のありかも知っている。たしかお前、そう言ってたな……」
「フォヴェル氏は出かけるとき、殆どいつも彼の鍵を寝室の書き物机の引き出しに入れておくよ」
「よし! お前フォヴェル夫人に会いに行って鍵を要求するんだ。おとなしく渡して貰うか、力づくで取り上げるか、そんなことはどうでもよい。鍵を手に入れたら、金庫を開けて、中にあるものを全部取ってくるんだ……」
たっぷり五分以上も、クラムランはすっかり放心状態になり、プロスペルへの憎悪とマドレーヌへの愛情を奇妙に混ぜ合わせつつ支離滅裂なことを口走っていた。その様子があまりに奇怪だったため、ラウルはルイの精神が異常をきたしたのではないか、と本気で疑ったほどだった。ルイを落ち着かせることが自分の務めだと思ったラウルは口を開いた。
「勝利に酔いしれる前に、問題点を検討してみようぜ」
「問題点など、わしには見えんが」
「プロスペルは明日にも合言葉を変えるかもしれない」
「その可能性は確かにある。が、可能性は低い。あいつは自分の言ったことを覚えてはおるまい。それに、わしらは急いで行動するのだ」
「それだけじゃない。フォヴェル氏の明確な指示により、彼は夜間、はした金以外は金庫に金を保管しておかないんだ」
「わしが言う夜には大金が入っておる筈だ」
「どういうこと?」
「つまり、わしはフォヴェルのもとに十万エキュ預けてあるから、もしわしが近々然るべき日に払い戻しを要求すれば、しかもごく早い時刻、会社の操業開始時に、と指定すれば、その金は前の晩から金庫に眠っているだろう」
ジャンル:
その他
コメント   この記事についてブログを書く
« 第一部  第八章 11 | トップ | 第一部  第八章 13 »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。