エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第二部  第一章 6

2017-07-13 10:35:40 | 「ファイルナンバー1...
「それでは、事態はあるいは修復可能かもしれない」
「えっ! そうお感じになりますか?」
「私の考えでは、気性の激しい人間は自分でもそれを心得ていて、最初に頭に浮かんだ行動は取らないものです。そこに、私たちが助かる可能性がまだあります。もし、あなたからの爆弾書簡を受け取って自分を抑えられなければ、彼はまっすぐ妻のところへ走って行き『お前のダイヤモンドはどこだ?』と叫ぶでしょう。そうなったら最後、我々の計画は一巻の終わりです。私はフォヴェル夫人の性格を知っています。彼女は一切を告白するでしょう」
「それがそんなに深刻な事態でしょうか?」
「そうなのですよ、君。フォヴェル夫人と夫の間でそのことが大っぴらに話されたその瞬間に、我々が捕まえようとしている相手は逃亡してしまいます」
プロスペルはこの可能性を予想していなかった。
「それに」とヴェルデュレー氏は続けた。「このことは、ある人に大変な苦痛を与えることになるでしょう」
「僕の知っている人ですか?」
「そうですとも、君、大いに知っている人ですよ。ともあれ、真相が最後まで暴かれないまま、あの二人のならず者に逃げられてしまうのは困ります」
「それでも、どうすればよいのか、あなたは分かっておられるように思うのですが……」
ヴェルデュレー氏は肩をすくめた。
「それじゃ君は」彼は尋ねた。「私の話の中で欠けているものに気づかなかったのですか?」
「全く気づきませんでした」
「それはつまり君が私の話をちゃんと聞くことが出来なかったということです。まず第一に、ルイ・ド・クラムランは、兄を毒殺したかどうか。どうです?」
「はい! 今伺った話からすれば、それに間違いありません」
「ほほう! 君は私より確信を持っているようですね。私も君と同意見ですよ。しかし、どんな証拠がありますか? 何もない。私はある筋からの情報を得て、C医師に尋ねてみました。ところが彼は何の疑いも持っていませんでした。C医師はやぶ医者などではなく、学識のある開業医で、観察眼も確かです。一体どんな毒があのような症状を引き起こしたのか? 私には分かりません。私はこれでも毒薬の研究はかなりしたのですよ。ポムレーのジギタリス(葉は心臓病の薬)からソブリジーのアコニチン(トリカブトから取る有毒物質)に至るまで」
「あの死はあまりに都合よく起きましたね……」
「だから犯罪を考えざるを得ない? 確かにそうです。しかし、偶然というのはときに最上の共犯者になることがあります。それが最初の点。第二に、ラウルの素性を私は知りません」
「それを知ることが必要ですか?」
「必要不可欠です。どっちみち、すぐに分かりますよ。ロンドンに私の部下……いや失礼、友人の一人を派遣しておきましたからね。パロー氏という大変有能な人でね、手がかりを掴んだと手紙で知らせてきましたよ。全く、あの懐疑主義者で情にもろい若いならず者がこれまでどんな軌跡を辿って来たか、大いに興味をそそられます。クラムランに出逢わなかったら、彼はまっとうな人間になっていたかもしれない……」
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