エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第二部  第一章 7

2017-07-14 10:38:05 | 「ファイルナンバー1...
プロスペルはもう聞いていなかった。ヴェルデュレー氏が約束してくれたので、彼には自信が出てきた。真犯人たちが司法の手に引き渡される姿がもう目に浮かんでいた。そして重罪院で彼の無実が高らかに宣言されるその場面を思い浮かべ、もう既にうっとりしていた。彼の不名誉は世間に知れ渡ったが、こうなれば彼の名誉回復は華々しくなされるであろう。
そして更に、彼はマドレーヌを取り戻すことが出来る。というのは、今となっては、あのお針子の店での彼女の振る舞いや躊躇いの意味が理解できたからだ。彼女が自分を愛するのをやめたことは一度もない、と彼は知った。
この来るべき幸福の確信が彼に落ち着きをもたらさぬ筈はなく、事実彼はフォヴェル氏の会社で金庫破りが発見されたあの時以来ずっと失っていた冷静さを取り戻した。そして今初めて、彼は自分が置かれた状況の特異さに驚いた。人間の予測を覆すような出来事は、かつて考えもしなかったような新奇なレベルにまで思考を導くものだ。プロスペルはこれまで、ヴェルデュレー氏が庇護してくれることや彼の捜査方法が多岐に亘ることにただ単に驚いていただけだったが、彼の行動の裏にはどんな隠された理由があるのか、訝しく思うに至った。つまるところ、この太った男の献身の動機は何なのか? その代価はどのようなものなのか?
プロスペルは不審な思いを募らせたあまり、出し抜けにこう口走ってしまった。
「もうこれ以上、あなたのことを私に隠さないでください! ある人の名誉と人生を取り戻してあげて、その人を救った場合、救われた人間に、誰に感謝と祝福を述べるべきかを言うものです」
考えに耽っていたところを突然、このように言われ、ヴェルデュレー氏はハッと身を震わせた。
「ああ……」彼は微笑みながら言った。「あなたはまだすっかり危険を脱したわけではありませんよ。まだ結婚したわけではないでしょう? あともう数日間、忍耐と信念を持ち続けけるのです……」
六時の鐘が鳴った。
「おや、もう六時ですか!」ヴェルデュレー氏は叫んだ。「今夜はゆっくり寝られると思っていたのに。寝ている場合じゃなさそうだ」
彼は部屋の外に出ると、階井の上に身を屈めた。
「マダム・アレクサンドル!」彼は呼んだ。「もしもし! マダム・アレクサンドル!」
グラン・ダルシャンジュの女主人であり、ファンフェルロー、別名栗鼠氏のでっぷりした妻であるマダム・アレクサンドルは眠らず起きていた。このことにプロスペルはびっくりした。
彼女はかしこまり、微笑みを浮かべ慇懃な態度で姿を現した。
「何なりと御用を。何でございましょう?」と彼女は尋ねた。
「大至急、あなたの御……ジョゼフ・デュボアとパルミールに用があるのです。二人を呼びにやって貰えますか。二人がやって来たら私を起こしてください。これから少し休みますから」
マダム・アレクサンドルが階段を降りきらないうちに、ヴェルデュレー氏は遠慮なくプロスペルのベッドに倒れ込んだ。
「ここで寝ても構わないですね?」彼は言った。
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