エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第一部  第七章 11

2017-05-17 10:05:36 | 「ファイルナンバー1...
ルイにはそれが何のことかすぐ分かった。それこそ彼の頭の中に耐えずあった問題ではないか! しかし、彼は非常に驚いた様子をして見せた。
「手紙を? どこに? 誰宛てに? 何の用で?」と彼は尋ねた。
「ボーケールに、ラフールカード宛てに、ヴァランティーヌの結婚した相手の名前を聞くためだよ」
「それじゃいまだに彼女のことを考えているのか?」
「ああ、ずっと」
「彼女に会うという考えを捨てられないんだね?」
「その思いは変わらないよ」
「なんてことだ! 兄さんが愛した女性は別の男の妻になっているということを、考慮しないというんだね。彼女にはきっと家族もいることだろう。そんな彼女が兄さんに会って喜ぶと思う? 彼女の人生に波乱をもたらすかもしれないし、兄さんも後で激しく後悔することになるかもしれない、てことがちゃんと分かっているのかい?」
「ああ、正気の沙汰じゃないね。よく分かっている。でも、この馬鹿げた考えは私にとって大切なもので捨てられないんだよ」
ガストンがこう言ったときの口調で、その決心はもう揺るがすことの出来ないものだとルイにも分かった。しかし、表面上はいつもと同じ態度を通し、楽しい遊びの計画しか頭にないように振舞った。実際は、この家に届けられる手紙のことを案じてびくびくしながら毎日を過ごしていたのであるが。
彼は郵便配達人が何時頃やって来るか、を正確に掴んだ。そして常に、偶然を装って郵便配達人を捕まえるために中庭に出ていた。もし兄と一緒に彼も外出しているときには、日中届けられる手紙がどこに置かれるかを知っていたので、その場所に走って行った。
彼の監視は報われた。
次の日曜日、郵便配達人が彼に手渡した手紙の束の中に、ボーケールの切手が貼ってある一通を見つけた。急いで彼はその手紙をポケットに滑り込ませ、兄と共に馬で出かける直前であったにも拘わらず、口実を設けて自分の部屋に行った。逸る気持ちを抑えきれなかったのである。
それはまさに待ち構えていた手紙で、ラフールカードという署名があった。その手紙は三枚に亘り、ルイには全く無関係な事柄がぎっしりと事細かに書かれていたが、ヴァランティーヌに関する記述もあった。
『ラ・ヴェルブリー嬢が結婚した相手は、非常に人望のある金融家のアンドレ・フォヴェル氏です。私はまだお会いする光栄に浴したことはないのですが、次にパリに行ったときお訪ねしようと考えています。というのは、私にはこの地方の振興を図る計画があり、彼にその判断を委ねようと考えているからです。もし彼が良いと判断したら、彼に財政支援を求めるつもりです。その際貴君の名前を推薦者として挙げることをお許しいただきたく……』
ルイは、とてつもない危険から間一髪逃れた男のように身体を震わせた。
「この手紙がガストンの手に渡っていたら」彼は呟いた。「俺はずらかるしかなかったところだ」
しかし、彼の破滅は延期されただけで、依然として確実なもののように思われた。
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