エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第二部  第一章 8

2017-07-15 10:34:38 | 「ファイルナンバー1...
五分後には彼は寝入っていた。プロスペルは肘掛け椅子の上に身体を伸ばし、今まで以上に不思議な気持ちで、自分を救ってくれたこの男が一体何者なのかと考えた。
九時になるかならないかという頃、指先で軽く三度部屋のドアをノックする音が聞こえた。その音はごく微かなものだったが、ヴェルデュレー氏の目を覚まさせるには十分で、彼はベッドの足元に飛び降りると尋ねた。
「どなた?」
しかし肘掛け椅子の上ではまどろむことの出来なかったプロスペルが、ドアを開けに行った。入ってきたのはクラムラン侯爵の下男のジョゼフ・デュボアであった。ヴェルデュレー氏の補佐を務めているこの男は走って来たので息を切らしており、彼の猫のような小さな目はいつもより更にキョロキョロ動き、不安気だった。
「ああ、やっと会えましたね、ボス!」彼は叫んだ。「指示を仰がねばならないことが新たに起きました。あなたがおられないんで、どの神様に頼ったらいいのか、途方に暮れてましたよ。まるで糸の切れたマリオネット人形みたいな按配になっちまって」
「こんなに慌てて、一体どうしたのだ?」
「ひゃー! ボスがどこにいるのか、全く分からなかったっすよ。昨日の午後、ボスから教えられた住所、リヨン、ボーケール、オロロン宛てにそれぞれ電報を打ちましたよ。どこからも返信がないんで頭がどうかしちまうところでした。その時ちょうど使いが来たってわけです」
「正体を感づかれそうになったのか?」
「それどころじゃありませんよ、ボス、もうこれ以上は無理、金輪際持ち堪えられません!」
このやり取りの間、ヴェルデュレー氏は、眠っている間僅かばかり寝乱れたので、身なりを整えていた。それが終わると彼は肘掛け椅子にどっかと腰を下ろしたが、ジョゼフ・デュボアは帽子を手に、敬意を込めて立ったままでいた。身なりは違えど、戦況報告に来た兵士の態度であった。
「説明してくれたまえ、君」とヴェルデュレーは言った。「手短かに頼む。単刀直入に」
「つまりこういうことです。ボスの意図がどこにあるのか、戦闘作戦がどういうものか、私は知りません。ですが、もう終わりにしなくては。最終攻撃にいますぐ掛からねばなりません」
「それが君の意見かね、ジョゼフ・デュボア君?」
「そうです。もしこれ以上愚図愚図と時の過ぎるのを待っていたら、奴らに逃げられてしまいます。籠の中は空っぽ、鳥は飛び去った後、てことになります。笑っておられますね? ……そりゃボスに間違いのないことは分かっています。ですが、あの連中だってしたたかですぜ」
「私が君に手紙を送ったとき、君は彼らを監視しておかなかったのか?」
「しましたとも。ですが、あの連中は鰻みたいに指の間からするりと抜けてしまうやつらでしてね。どこに隠れたらいいか、ちゃんと知ってるんですよ」
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