エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第一部  第七章 10

2017-05-16 12:36:28 | 「ファイルナンバー1...
「でも、どうやって彼女を見つける?」
「ああ、それは簡単なことさ。あの地方の者なら誰でも彼女の夫の名前を教えてくれるだろう。名前が分かりさえすれば後は……。ということで、早速明日ボーケールに手紙を書くよ」
ルイは返事をしなかった。何よりも、兄の計画に異論を挟まないよう自分を戒めた。反対意見を唱えれば、それは殆ど常に相手に決心を固めさせることになる。説得の言葉の一つ一つが釘を打ちこむ金槌の役割を果たすのだ。抜け目ない人間として、彼は話の方向を転換させ、その日からもうパリのこともヴァランティーヌのことも話題にしなくなった。
その夜自分の部屋で一人になって初めて、ルイはこの状況に正面から取り組み、あらゆる局面を検討してみた。当初、状況は絶望的に見えた。出口の見えない状況に追い詰められ、戦いを放棄して降参するしかないように思われた。そう、彼が考えていたのは、兄から相当な額の金を借り、そのまま姿をくらますのが賢いやり方ではないか、ということだった。これまでの自分の後ろ暗い経験を思い出しても、今のこの場面に当てはまりそうな術策は、いくら考えても浮かばなかった。四方から一度に差し迫った危険が押し寄せ、払いのけることも出来なかった。
フォヴェル夫人、その姪、そしてフォヴェル氏のことをそれぞれ心配しなければならない。ガストンは真実を知れば復讐したいと思うであろう。共犯者であるラウルでさえ、事態が危うくなれば彼に敵対し、最も容赦ない敵となるであろう。ヴァランティーヌとガストンの再会を妨げることがそもそも可能であろうか?明らかに不可能だ。二人が再会する瞬間とは、彼の破滅の瞬間を意味する。
「もう無駄だ」彼は呟いた。「何をやっても駄目だ。なすすべはない。時間を稼ぎ、好機が訪れるのを待つ以外は」
ルイの言う『好機』とは、クラムランでの落馬のようなものを意味していた。
彼は窓を閉め、ベッドに横になった。危険と隣り合わせで生きてきた習慣のおかげで、眠ることは出来た。朝になると、前夜の苦悩を暴露するような額の皺一本なかった。彼はこれまで見せていた以上に情愛深く、陽気によくお喋りし、馬に乗って田舎の方に出掛けたいと言い出した。今まで落ち着いていたのが嘘のように突然活動的になり、周辺を散歩することしか口にしなくなった。
彼の真意は、ガストンの興味を引き付け、パリのことや、特にヴァランティーヌのことを考えさせないようにするところにあった。時間が経つにつれ、彼のやり口はますます巧みになっていったので、昔の恋人と再会することをガストンに思いとどまらせることに希望をつなぐようになった。彼はガストンに、このような再会は全く無意味であり、双方にとって辛いものになる、と説得しようと考えた。ガストンにとっては気づまりとなり、ヴァランティーヌにとっては危険なものになるであろう、と。
彼女に託した宝石類に関しては、もしガストンが返して貰うことを主張したら、そのときはしめたものだ! ルイ自身がこのデリケートな役割を果たすことを申し出るつもりだった。ちゃんと取り返してくるからと約束すればよい。その宝石類がどこにあるか、自分は知っているのであるから。
しかし彼は自分の試みや目論見のむなしさをすぐに思い知ることになった。
「話があるんだけど」ある日、ガストンが言った。「例の手紙を書いたんだ……」
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