エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第一部  第三章 17

2017-03-21 11:12:52 | 「ファイルナンバー1...
その上、娘が告白をしそうになっても、それを止めるだけの影響力が自分にあると考え、ヴァランティーヌが一分たりともアンドレと二人きりにならないようにした。結婚さえしてしまえば後は何とかなるだろう、と彼女は考えていた。それから、アンドレと同じくらいせっかちな彼女は、結婚の準備を急がせた。ヴァランティーヌには落ち着く時間も、じっくり考える暇も与えなかった。細々したことで、彼女を忙しくさせ、彼女の生活に入り込み、目を回させた。やれドレスを買え、嫁入り衣装の品物を取り換えよ、誰それを訪問せよ、何が足りない、かにが足りない、等々。
かくの如く、まるで大博打の決定的瞬間を迎えるプレーヤーのように、希望に息を弾ませ、不安におののきながら、彼女はついに結婚式の前日まで無事に漕ぎ付けることができた。その日の夕方、初めてヴァランティーヌは夫になる筈の男と二人きりであることに気がついた。夜になると、いつもにも増して鋭い不安に苦しめられた彼女は居間に逃げていった。その後、アンドレが入ってきた。彼女が酷く心乱れた様子で涙にくれているのを発見すると、彼は優しく彼女の手を取り、一体どうしたのかと尋ねた。
「私はあなたの一番の味方ではないですか」彼は言った。「なにか悲しいことがおありならば、私に話して貰えませんか? 何故泣いておられるのです?」
この瞬間、彼女はもう少しで告白しそうになった。しかし、このとき突然、やがて起きるスキャンダル、アンドレの苦しみ、そして母親の怒りが彼女の頭をよぎり、自分の人生も台無しになることを思った。そこで彼女は、もう遅すぎる、と自分に言い聞かせ、もう終わりだと悟ったときの若い娘が誰でもそうするように、わっと泣き叫んだ。
「わたし、怖いんです!」
アンドレはすぐに、これは初めての世界に入っていくときの漠然とした不安や恥じらいから来るものであろうと理解し、彼女を慰め、安心させようとしたが、自分の言葉が彼女を落ち着かせるどころか、苦痛を二倍にする様子なのを見てひどく驚いた。しかしこのとき既にラ・ヴェルブリー夫人が駆けつけてきた。婚姻契約にサインをさせようというのだった。結局彼は何も知ることはなかった。
翌日、春の好天の日、ついに教会でアンドレ・フォヴェルとヴァランティーヌ・ド・ラ・ヴェルブリーの結婚式が執り行われた。朝から城には花嫁の友人たちが大勢やって来て、慣習に従い、花嫁の着付けを取り仕切った。ヴァランティーヌは落ち着いていようと努め、微笑みを浮かべさえしていた。しかし彼女の顔はベールよりも白く、悔恨が胸を引き裂いていた。自分の顔に書いてある真実が人にはきっと分かるだろうと彼女は思った。純白のドレスは苦い皮肉であり、この上ない侮辱のように思えた。
花嫁の付き添い娘が、彼女にオレンジの花冠を被せたとき、彼女は身震いした。この花冠が火傷しそうに熱く思えた。火傷はなかったが、茎を結わえてあった鉄線の一本がきちんと覆われていなかったため、彼女の額に軽い擦過傷をつけ、かなりの血が流れた。その一滴が彼女のドレスに落ちた。なんという不吉な前兆! ヴァランティーヌは気が遠くなりそうだった。
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