エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第一部  第七章 12

2017-05-18 11:15:19 | 「ファイルナンバー1...
ガストンは返事を更に一週間ほど待って、もう一度手紙を書くであろう。ラフルカードは大変驚き、すぐ折り返し返事をするであろう。とすれば、長く見積もってもルイに残された時間はあと二週間ほどになる。
ということは、危険は目の前に差し迫っている、と彼は考えた。この馬鹿がパリに行って、フォヴェルの前でクラムランの名前を出せば、一巻の終わりだ。
階下ではガストンがじれったそうにしていた。
「早くしろよ!」と彼はルイを呼んだ。
「今行く」ルイは答えた。
彼の旅行鞄の隠しポケットにラフールカードの手紙をしまってから、彼は降りていった。
今や、取るべき道は借金だ。ポケットに大金を詰め込み、既に持っている金と合わせ、アメリカに渡ればよい。ラウルなど知ったことか! 勝手に一人で危機を切り抜ければ良いのだ。確かに、自分が思い描いていたとびきり素敵な陰謀が不首尾に終わるのを見るのは残念なことだが、強い男というものは愚かしく運命に腹を立てたりせず、目下の情勢から最良の選択を引き出すものだ。
早速次の日、ガストンと共に夕刻オロロンの工場から帰る途中、彼は作り話の序章を語り始めた。その話の結論は二十万フランを貸して貰うことになる筈であった。
二人は腕を組んで、ゆっくりと歩いていた。そのとき、工場から一キロほど離れたところで一人の若い男とすれ違った。フランス中を渡り歩いている労働者の身なりをしたその男は彼らに挨拶をした。
突然ルイがびくっと身体を大きく震わせたので、ガストンもその衝撃を受けた。
「一体どうしたんだい?」彼は驚いて尋ねた。
「いや、何でもない。爪先が石にぶつかって痛かっただけだよ」
それは嘘だった。彼の声が震えていることでガストンにもそのことが分かったであろう。ルイがこんなに驚いたのは、さきほどの若い労働者にラウル・ド・ラゴールの姿を認めたからであった。このときからルイ・ド・クラムランは茫然自失状態となった。驚きと本能的な恐怖が彼の図太さを麻痺させ、口をきけなくしていた。彼はもはや会話を続けられなかった。
「そうだね。全く。本当に! おそらくね」を内容に関係なく繰り返していただけだった。
ラウルがオロロンに姿を見せるとはどういうことだろう? 彼は何をしたのか? 何故労働者の作業着を着て変装していたのか?
オロロンに来てから、ルイは殆ど毎日ラウルに手紙を書いていた。返事は一度もなかった。この無音を彼は最初当然のことと考えていたが、今となれば不自然で説明のつかぬことに思えてきた。
幸いにも、ガストンが今夜は疲れたと言い、いつもよりずっと早い時刻に帰宅しようと言い出し、家に着くや否や自室に入っていった。ルイは一人になった! ついに……。
彼は葉巻に火をつけ、召使いには自分に構うなと言いつけ、外に出た。ラウルの性格を知っている彼は、もしあれが本当にラウルなら、この家の回りをぶらついていて、ルイが出てくるのを窺っている筈だと思った。彼の予測は当たっていた。道に出て百歩も歩かぬうちに、突然男が一人雑木林から出て来て彼の前まで来た。その夜は大変明るかったので、それがラウルだと分かった。
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