エミール・ガボリオ ライブラリ

ホームズに先立ち、「推理する探偵」を生み出した19世紀フランスの作家ガボリオの未邦訳作品をフランス語から翻訳しています。

第二部 第一章 9

2017-07-17 23:30:09 | 「ファイルナンバー1...
「そんなことがあるかい!」ヴェルデュレーが叫んだ。「誰だってちょっとしたヘマはやるだろう」
これらのやり取りは大っぴらになされたので、プロスペルに多くの考えるヒントを与えた。また彼は一心に耳を澄まして聞くうち、ヴェルデュレー氏の無造作な優位性と下男の心からの敬意を感じ取った。
「それがちっともヘマをやらかさないんでさ」ジョゼフは答えた。「あいつらの用心深さは、ボスもちっとはご存じでしょうが、相当前からのことです。ボスがピエロに扮したあの晩、あいつらは何かに警戒心を持ったようで、その証拠がボスにナイフで切りつけたあの一件ですよ。あれ以来、寝る時も片目しかつぶらないほどで。しかし、そうこうするうちに奴らもちょっと落ち着いてきたな、と思っていたところが、昨日いきなりガーンと来やがった」
「それで私に電報を三通打ったというわけか?」
「そういうことです。まぁ聞いてください。昨日の朝ベッドから起きるなり、つまり十時頃ですが、クラムランは居間の戸棚に入れてあった書類を整理し始めたんです。ついでながら、この戸棚には丈夫な錠前がついておりましてですね、大いに私を手こずらせたもんです。さて、私はその間ずっと暖炉にへばりついて仕事をする振りをしながら横目で窺っておりました。ねぇボス、あの男はアメリカ人みたいな目を持ってますよ。一目見ただけで、誰かがその書類に触ったと見て取ったんです。と言うより推測したんですな。真っ青な顔になって、罵り声を上げたんですが、まぁその罵りときたら……」
「いいから、先を話せ」
「ならそうします。私がちょっと書類を調べたことが、どうして奴に分かったんでしょう? それが謎なんでさ。ボスもご存じのとおり、私は細心の注意を払う性質です。手先は器用だし、注意して、すべてを元通りにしておきましたよ。まぁそんなわけで、クラムラン侯爵は自分の思い違いでないことを証明するために、手紙を一通一通調べ始めました。裏返したり、匂いを嗅いだり……。なんなら顕微鏡で調べますか、と言ってやりたくなりましたよ。あの悪党、そんなものは要りませんでした。突然目を爛々と光らせパッと立ち上がると、椅子をひと蹴り、壁際まで吹っ飛ばし、怒鳴りながら、私に突進してきたんです。『ここに入って来た奴がいる。わしの書類を読んで、手紙を写真に撮った奴がいる!』と。くわばらくわばら! 私は臆病者じゃありませんが、そのときばかりは身体中の血がピタッと止まってしまいましたよ。身体を切り刻まれ、惨殺されると思いましたね。自分に向かってこう言い聞かせましたよ。ファンフェ……いや違った、デュボアよ、お前、焼きが回ったぜ、と。それからマダム・アレクサンドルのことを考えました……」
ヴェルデュレー氏は真剣な顔になっていた。ジョゼフ・デュボアには個人的な感情に浸らせておき、考えに耽っていた。
「それからどうなった?」彼はついに先を促した。
「恐ろしいからって、私は放棄しませんでしたよ、ボス。あのならず者は私に指一本触れませんでした。私は予め用心して、奴の手が届かないように、部屋の真ん中にある大きなテーブルを挟んで話をするようにしてましたからね。一体なんでばれたんだろうと考えながらも、私はまことしやかな顔で抗弁しました。『そんなことはありません、侯爵。考え違いをしておられます。そんなことあり得ません』てね。ところが向こうは全く私の言うことを聞いていない。手紙の一通を振りかざしながらこう繰り返して言うんです。『この手紙は写真に撮られている。わしには証拠がある』と。
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