エミール・ガボリオ ライブラリ

19世紀フランスの探偵小説作家ガボリオの未邦訳作品を翻訳しています。

第二章 4

2016-10-13 10:20:44 | 「ファイルナンバー1...
アンドレ・フォヴェルは五十歳ぐらい、中肉中背、頭髪には白髪が混じり始めていた。かなり太り肉で、猛烈に働く人間が皆そうなるように軽く猫背になっており、歩く際には身体を左右に揺らせる癖を持っていた。彼の動作のどれ一つを取っても、その顔から善良な表情を消し去ることはなかった。彼の態度はあけっぴろげで、生き生きした率直な目をしており、唇は赤く微笑を湛えていた。エックスプロヴァンス地方出身である彼は、興奮したときなどプロヴァンスの訛りを洩らすことがあり、彼の機知に独特の風味を添えていた。彼は才気煥発な男だった。
ボーイによりもたらされた知らせは彼を動転させていた。というのは、通常は赤ら顔の彼が今は真っ青になっていたからである。
「一体何なのだ?」彼の前で敬意を込めてさっと左右に分かれた従業員たちに彼は尋ねた。「何が起こったのだ?」
フォヴェル氏の声が聞こえると、出納主任の身体にエネルギーが蘇った。重大な危機に際し生まれるあの不自然な力である。恐るべき決定的な瞬間がやってきたのだ。彼は立ち上がり、雇い主の方に歩み寄った。
「頭取」彼は言い始めた。「今朝、頭取もご存じの払い戻しをしなければなりませんでしたので、昨夜私はフランス銀行に三十五万フランを取りに行かせました」
「何故昨日なのだ?」フォヴェルは遮って尋ねた。「君には何度も口を酸っぱくして、当日まで待つように、と指示していた筈だが」
「分かっております。私が間違っておりました。ですが、起こってしまったことはどうにもなりません。昨夜私はその金をきちんと保管しておきました。それが消えてしまったのです。それなのに、金庫はこじ開けられた形跡がありません」
「しかし、そんなことが!」フォヴェルは叫んだ。「君は気でも狂ったか、夢でも見ているのか!」
これらのやり取りはすべての希望を打ち砕いた。しかし、この状況の恐ろしさがプロスペルに熟考の末の冷静さではなく、不意の大惨事の後にやって来るある種の自暴自棄の無感覚を与えていた。彼は見たところ何の問題もないかのように、こう答えた。
「不運なことに私は気が狂ったのでも、夢を見ているのでもありません。ありのままを言っているのです」
このような状況におけるこの平静さは、フォヴェルを激怒させたようだった。彼はプロスペルの腕を掴み、乱暴に揺すった。
「何だと、言ってみろ!」彼は叫んだ。「言ってみろ! 金庫を開けたのは誰だと言いたいんだ?」
「私には申し上げられません」
「暗号を知っているのは君と私だけだ。鍵を持っているのも君と私だけだ!」
これは明白な糾弾であった。少なくとも、そこにいる者たちはそう理解した。しかし、プロスペルのぞっとするような平静さは変わらなかった。彼は締め付けられていた腕をそっと緩やかに外し、こう言った。
「仰るとおり、その金を取り得た人間は私……」
「なんたる奴だ!」
プロスペルは後ずさり、フォヴェルの目をしっかり見据えながら続けて言った。
「もしくは、あなたしか居ません!」
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