超芸術と摩損

さまざまな社会問題について発言していくブログです。

求める愛媛の形 熱く 国論二分の諸問題 加戸兄弟語る

2015-12-08 17:18:42 | 新聞から
対談

兄 加戸 弘二氏 (医師・環境保護団体代表)
 かと・ひろじ 33年生まれ。八幡浜高、京都大医学部卒。医療法人弘友会会長。環境保護団体グリーンコンシューマーおおず(GCO)代表。GCO は9月、大洲市議会に四国電力伊方原発再稼働に反対する請願を提出し、不採択となった。大洲市在住。

弟 加戸 守行氏 (前知事)
 かと・もりゆき 34年生まれ。八幡浜高、東京大法学部卒。文部省(現文部科学省)に入省し文化庁次長~同省官房長などを経て99年、知事に初当選。06年、伊方原発3号機のプルサーマル計画に同意。10年11月まで3期務めた。松山市在住。

 ダム、原発、安保―。国論を二分する問題で長年、議論してきた八幡浜市出身の兄弟がいる。兄は医師の加戸弘二(82)、弟は前知事の守行(81)。兄は環境保護団体の代表を務め、三つのテーマ全てに反対の立場。一方の弟は、かつて県政を担い推進や賛成の立場で政治判断を重ねてきた。「守行、それでいいのか」「兄貴はそう言うが」。戦後70年、兄弟対談で思い描く日本や愛媛の形をぶつけ合った。
(敬称略、聞き手・中井有人)

始まりはダム

環境マイナス大きい 弘二氏
洪水阻止のため必要 守行氏

 ―お互いの性格をどうみていますか。議論の始まりは何でしたか。
 弘二 役人出身の弟と、しがらみのない立場の私では違いがありますね。
 守行 子どものころは兄貴は口数が少なく、私は多かったですね。私は朝から晩まで遊び回って。兄貴は外で駆け回るタイプじゃなかったですね。
 弘二 私は年を取って大学を出てから言うべきところは、はっきり言うようになりました。守行は役人の世界では天衣無縫というか、枠にとらわれないところはあります。
 守行 議論の最初は山鳥坂ダム問題かな。山鳥坂ダム建設や鹿野川ダム改造を推進するという意見と、もうダムは要らないという論。私は知事として推進の立場で、なんせ兄貴は環境という点から反対していましたから。会うたびに意見対立だったですかね。
 弘二 私はダムに反対で住民投票ヘ署名集めをする中心メンバーでしたね。私は最初、守行は立場上推進の考えなのだろうと思っていました。守行は(1999年に)知事になったばかりの時、「県がお金を出さないかんなるし、どちらかといえば、本当はダムができんほうがええんやけど」と言ってなかったかね。
 守行 あの時は過去の材料を集めて詳しく分析したわけでもなくて。材料を集めて勉強して、どうしたらいいかを考えていました。
 当時は(ダム建設が)松山市の水問題を解決するのに、非常に有力な手段だから松山の水がウエートの高い要素として頭にありました。その後、中予分水案がすっ飛んでから、環境と洪水防止の問題になってきました。
 そこでダムをやめるかどうかという時に、鹿野川ダムの改造を私が提案したんです。国土交通省がのんでくれるという方向が見えてきたから推進しようとなった。
 弘二 私もダム建設予定地を見に行きましたけど、ダムができて自然環境を破壊するというのはプラスマイナスから見ると、しない方がいいと思いましたね。
 守行 中山川や矢落川の水量の方がはるかに多いから、そこにダムができるのがいいのだけれど、環境条件から地質調査をやってできないとなり、次善策として(河辺川にある)山鳥坂ダムなんですよ。
 兄貴が言うのは、ダムが自然環境を破壊するという論理であって、山鳥坂ダムの治水効果が低いといっても、矢落川ならいいんですかといえば反対でしょう。議論がかみ合わないですよね。要するに環境保全を重視するか洪水を阻止するかということで。
 弘二 山鳥坂タムが調節するのは肱川の流域面積の5%なんですよ。環境面からいってもやはりマイナスの方が大きい。ダムを造ることにより水没集落もできる。利益を得る業界や国交省の意向が強くて進められていると私は思う。

原発の是非

最終処分場 適地なし 弘二氏
新設と再稼働 別議論 守行氏

 ―原発に対してどう考えていますか。
 弘二 東京電力福島第1原発事故前は漠然と原発反対の気持ちでしたが、事故後、原発自体に強烈に反対するようになりました。再稼働も反対。もし福島と同じ事故が伊方原発で起きたら大洲に住めなくなる。松山も同じ。デメリットがはるかに大きい。
 守行 福島原発事故は、地震で起きた予想外の津波で電源が喪失し代替電源が確保されていなかったのが原因で、二重三重の代替電源を確保しさえすれば問題が起きない、というのが私の基本的考えです。
 兄貴は日本の原発を全て止める考えで再稼働に反対しているが、京都議定書で日本が目指していた二酸化炭素(CO2)排出抑制に逆行する政策。もともと環境保護論者だったのにCO2の問題をどうお考えなんですかと反論したいですね。
 弘ニ 津波が原因だと言うが、原因はまだ分からんというのが本当。地震動が原因で配管が破損したかもしれない。原因も分からないのに十分な対策ができたなんてものではない。
 福島の場合は放射性物質の多くが太平洋に流れたが伊方で事故が起これば瀬戸内海から西日本に広がる。CO2削減は必要だけど、原発への固執は日本経済の再生を遅らせる。一時的に化石燃料に頼らなくてはならないが、なるべく早く脱却するためにも、再生可能エネルギー導入を進めないといけない。
 守行 科学技術の粋を駆使し人知の限りを尽くしても事故を100パーセント防げることはあり得ない。飛行機は落ちないといったって落ちる。原発事故はあってはならないが、100パーセントなくせるかといったら神様しか知らない。原子力規制委員会を信じ、状況を判断すべきではないでしょうか。
 弘二 規制委は「100パーセント安全」とは言ってないわけですよね。そういう状態で、なぜ原発を動かさなきゃいけないかと。現に使用済み核燃料がたまり、リサイクルする核燃料サイクルは破綻しているわけです。それより未来を見つめ、今でも原発に負けないだけのコスト競争力がある自然エネルギーを使っていけばいい。自然エネはどんどん安くなっていく。
 守行 まあコストは専門家じゃないと分からず、誰の意見を信用するかだけども。それで今、再稼働が問題になっているんですよ。原発を新しく造っちゃいかんというは一つの考えだけれども、現在あって福島事故前に順調に動いており止めて様子を見ていたものをなぜ再稼働しちゃいかんのか、これは別の議論として必要だと思う。
 弘二 新設なんて国民的合意は得られないだろう。伊方の再稼働に関しても愛媛新聞の調査で69%が否定的だ。堂々と(再稼働の是非をめぐる)公開討論会を開き、専門家に話してもらうべきだ。
 事故を起こしたら後世に責められますよ。取り返しがつきませんよ。世界で核廃棄物の最終処分場建設が進んでいるのはフィンランドしかない。(地震国の)日本に適地はないです。使用済み燃料はもう原発に保管し続けるしかしょうがないのではないかと。
 守行 人間はいろんな知恵を出してものごとを解決しているので、必ず道は見つかると思いますよ。窮すれば通ずです。
 弘二 中間貯蔵を10万年続けるしかなくなるのではないでレょうか。そんな使用済み燃料をこれから増やしてもいいのか。
 守行 いやいや、放射性廃棄物が増えるというけど今までの放射性廃棄物が存在するわけだから五十歩百歩の話であって。これまでの50もこれからの50も解決していきましょうというのが人間じゃないですか。
 弘二 やはり国民や大洲市民のためを考えたら、原発は目先の利益だと思います。原発がなくなると経済的に因る人もいると思いますが、廃炉ビジネスもあるわけだから。
 守行 ベストチョイスは当分の聞は原発で将来は核融合というのが文部省時代からの感覚ですよね。原発は圧倒的にコストが安い。再生エネといっても非現実的。極論すれば、私は代替電源が見つからなければ原発を新しく造ってもいいと思っています。
 弘二 大うそですよね。安全というのも、安いというのも。

安保と世界観

外交努力で緊張解消を 弘二氏
国守れぬ憲法おかしい 守行氏

 ー知事時代、記者会見で県内市町から応募があれば核廃棄物の最終処分場の候補地調査を受け入れるのかという質問に「頭からノーと、かかっていく事柄ではない」と答えました。
 守行 私が仮に今、知事で「愛媛に最終処分場を」と言われたら、積極的に取り組みますね。愛媛が嫌と言ったら徳島、高知、香川が引き受けてくれるんですか。少なくとも四国でとなれば愛媛が受けるべきでしょう。どっかで誰かが引き受けなきゃならない。その覚悟を持って、私は知事になりましたね。
 弘二 国民投票や住民投票により、反対する住民が多ければ行政は考えなければならないと思います。イタリアは国民投票で脱原発を決めましたよね。
 守行 住民投票をやれというなら伊方町長選で原発推進、反対を公約に町長を選ぶべきですよ。私は沖縄県知事に賛成じゃないけれど、彼は少なくとも米軍基地の辺野古移設反対で当選しているから住民投票しなくても「世論、われにあり」と言える。
 安保法にしても、昨年、安倍内閣は(集団的自衛権の行使容認を)閣議決定しているじゃないですか。昨年の衆院選で自民党は声高に叫ばなかったけれども公約に安保を入れてますよ。今ごろ反対の声があるけれど、首相や政党がどんな公約をしようと、何かあればその都度、住民投票で決めるんですか。じゃあ選挙って何ですかとなる。
 弘二 安保法には反対です。今まで70年間、戦争をせずに済んでいることを支持する国民も多い。戦争放棄は簡単じゃないが、世界が目指すべき理念だと思う。政権与党は民意に沿ったことをするべきだと思う。衆院選の自民の公約は、アベノミクスがでかでかと載っており安保は数行だけ。選挙結果と民意は必ずしもイコールではない。
 守行 自民の候補が「安保やります」って演説で大きく言わなかったから悪いの? メディアはその前に閣議決定を大きく扱ったよね。国民はそれを知っているわけだ。安保をやるのは見え見えでしょう。
 弘二 でも結果的に多くの民意を踏みにじっているよね。今でも世論調査で多くの人が反対するわけで。
 ―憲法への見解は。
 弘二 今の憲法を守るべきだと思いますね。条文には戦力は保持しないとあり(自衛隊の存在は)実質的にそれに反していると思いますが。国際的な緊張が高まっていると首相は言うけれど、外交努力によりそういう緊張がないようにすることが大切です。
 守行 よそ(米国)から頂いた憲法を金斜玉条にしているのは日本だけ。自前の憲法を持つべきだというのが第一。第二は戦力放棄というけれども、9条を解釈すると武力行使できないから反撃できないはずで、国を守れない条文そのものがおかしい。
 ―なぜ意見が異なるのでしょうか。
 守行 私は国家公務員も知事もやり、行政感覚で最大多数の最大幸福を考え、欠点もあるがこれでいいだろうと、原発もダムも判断してきました。文部省では日教組対策をやってきましたが、反対運動は全てとは言わないが誰かが扇動し、みんなが乗っている。しかしよく見てみると中身を考えていない。戦争反対、徴兵制反対とあおられれば国民がそっちヘ流れるというのを、身に染みて見てきました。その延長線上に原発問題もあるんじゃないかというのが気持ちの底にあるのは事実ですよね。人々の気持ちが、ある方向にわあっと行くのに警戒感があるんです。
 弘二 弟は役人の道を歩んできたわけですよね。エリート社会の中で、自分たちがこれがいいと思ったらそれが最高だと思っているのか。私は権力に従わなくちゃいけない世界に住んでいないので、自由にものが言えるというのはあるかもしれません。

愛媛新聞2015年11月30日



加戸 弘二氏(かと・ひろじ=医療法人弘友会会長、加戸守行前知事の兄)2017年2月18日午前0時37分、大洲市東大洲の自宅で死去、84歳。八幡浜市出身。

加戸 守行氏(かと・もりゆき=文部省官房長、日本音楽著作権協会理事長、愛媛県知事)2020年3月21日午前8時57分、骨髄異形成症候群のため愛媛県内の病院で死去、85歳。中国・大連市生まれ、八幡浜市出身。

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